ラブレター2

缶珈琲と

少し慣れてきたバイト先に、毎日来てくれるオジサンがいた。

「ゆうちゃんは、彼女はいるのかい?」

何故か、大人の人に、ちゃん付けで呼ばれることが多かった自分。

その問いに、少し考え、

「いますよ。遠距離ですが。」

強がりを、口にしていた。

小さなお猪口に、注いであげたお酒。

先ほどの僕とは違う、いつものオジサンは、強いアルコールを、口にしていた。

「遠距離か。無理だな。」

「そうよ~。」

今、お世話になっているママ。と言うか、おばあさん。

「無理じゃないですよ。」

第三者からの言葉より、あいと過ごした思い出を信じたくて。

「もし、結婚でもしたら、包んでくださいね?」

いいぞ。の後に、ヒック。の二つ返事を貰った。

愛想笑いが得意になっていく自分。

お疲れ様でした。と、明るい街を歩き始めると、いつの間にか下を向いていることに気付く。

夜、遅いことも分かってたけれど、また、あいに電話をしていた。

大人の言葉を信じるわけではないけれど、現状の不安を払拭したかったのかもしれない。

「…もしもし。」

眠たそうな声に、悪いことしたな。と思いながらも、

「もしもし。寝てたかな?」

うん。の後に、どうしたの?と、その一言に、また、悲しさや愛しさが、積もっていく。

「何でもない。声が聞きたかっただけだよ。」

離れてから、いつもなら言えないことも、素直に言えていた。

「そっか。良かった。」

通りすぎて行く人に、ぶつかりそうになりながらも、耳に添えていた携帯電話を握りしめて。

「遅くにゴメンな。おやすみ。」

おやすみ。と続く声に、説明できない切なさを覚えた。

一歩一歩、交互に動く足並が、ゆっくりと止まった。

空を見上げてみると、暗いはずなのに、明るい夜空。

天体観測をしたこと。

いつも、待ち合わせしていた公園。

昔のように感じた、あいと見た夜空の思い出達が、次々に浮かんできた。

大丈夫、大丈夫。と言い聞かせ、また、重たくなった足を、家路まで運ばせる。

その日は、冷たい風が僕を追い越していった。
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