喩えその時が来たとしても
そんな縁起の悪い事が起きた夜、俺は更に身の毛もよだつような恐ろしい経験をする事となる。
真っ暗な自室でふと俺は目覚めた。
大学時代から家を出ていたので、俺の部屋は実質納戸のような使われ方をしていた。所狭しと積み上げられた荷物の狭間にベッドが置いてあり、帰省の際など、俺はそこでかろうじて寝る事が出来た。仕事を辞めて、住まいを引き払ってからこっち、住む場所が無くなった俺は必然的にここを寝所にする事となったが、狭いけれどもそこは元々れっきとした俺のモノだった部屋な訳で、実家の中で一番落ち着ける場所ではあった。
「痛っ!」
だが突然。横になっている俺の上に、積んであった靴箱が落ちてきたのだ。
「う~ん……」
どんな目覚ましよりもてきめんに覚醒させられた俺は、すぐさま腹の上に乗った靴箱を払いのけようとした……しかし。
『う、動かない……』
どう頑張っても腕が言うことを聞かず、ピクリとも反応してくれない。まぶたは開いているが、どうしたことか首も回らない。
『これって……金縛りか? ……まさか!』
霊感のレの字も無い俺は、学生時代に心霊スポットを冷やかしに行った時も、友人達が一様に感じた悪寒をただ一人感じる事なく帰宅した。勿論、他のメンバーにはそれを覚られないよう、人一倍怖がってみせていたのは言うまでもない。
それに加え中三の頃。俺は大好きだった婆ちゃんが隣の部屋で死んでいたのにも気付かず、一人で音楽を聞きながら漫画を読み耽っていた事がある。
帰宅した両親が冷たくなった婆ちゃんを見付けた訳だが、俺一人だったら発見が二・三日遅れていたかも知れない。
そう、近親者からの虫の知らせすら感じた事が無い俺は、全くの鈍霊感、霊鈍感なのだ。
『大人になるまでに霊を見なかったら、一生見なくて済む筈じゃないのか!』
俺はそんな何の根拠もない通説に怒りの矛先を向け、今自分の身に起きている不条理のうさを晴らそうとした。
『そりゃハムスターが兄貴の生まれ代わりだったりもしたが、あれは霊現象じゃないものな!』
自分に起こっている事は、霊なんて正体不明のモノの仕業じゃないと、何とかこの窮地から抜け出したかった俺は、そう自分に言い聞かせるが……。
「ぐえっ! うはっ!」
荷物が次々と俺目掛けて襲い掛かってくる。金縛りで動けない俺は為す術もなく、遂には荷物達の下敷きになってしまった。