喩えその時が来たとしても
考えてみれば、ようやっと将来へのビジョンが見えてきた頃に強制終了させられてしまった兄貴の人生だ。のうのうとただ生セイを繋いでいる俺なんかが、窺い知れないこの世への未練が有って然るべきなのだ。
そんな中、弟である俺の為に、一度拾った命でさえも打ち捨ててくれる、そんな兄に対して、俺は悪態を吐いてしまった。関係ないと、放っといてくれと言い放ってしまった。
その言葉が兄貴に火を点けたのは当然だ。兄として無償の愛を与え続けてくれる彼に甘え過ぎていた。色々してくれるのが当然なんだと兄貴の優しさにあぐらをかいていたのだ。
結果何気ない、悪気もない俺の数々の素行が積み上げられ、終いには巨大な悪意の塊と化して甦ったのだ。
俺が反抗期真っ盛りの生意気な中坊だった頃、今回のように兄貴の逆鱗に触れた事が二回有ったが、それ以降は兄貴の優しさを理解出来、感謝が先に立っていた事もあってこんな事態にはならなかった。
だがその兄貴は死んで、降って涌いた様な彼の転生。魂は兄貴でも、見た目がハムスターや仔犬だったので油断していたのだ。正直ナメていたのだ。
「ごめんよ、兄貴。本当にごめん……」
そして漸く本心から謝罪をした時、ポヨンとメッセージが届いた。馬場めぐみからだった。
『色々有って悪い。……ってメールを貰ってからだいぶ経つけど、その続きは? お兄様の件はどうなったの?(`.´メ)』
ヤバイヤバイヤバイヤバイ! 今度は馬場めぐみが激怒してるっ! 兄貴の説教を聞くのが忙しくて、彼女の事を忘れていた。
俺は急いでメッセージを送信した。勿論忘れていたなんて言える筈は無い。兄貴が仔犬で体力が無い為に長い時間話せない、とか適当な理由を付けた。
すぐポヨンとレス。まさにレスポンサビリティーに溢れた返信だが、この空き時間の無さが彼女の怒りを如実に伝えてくる。
『とにかく、早くお兄様に解決して貰って下さい(-_-;)』
ほら見たことか! 絵文字の感じも冷たいし、文章も素っ気ない。恋人同士が交わすラブラブメールには程遠い内容だ。だがしかし、ここは120%俺が悪い。責められたとしても反論は出来ない。馬場めぐみ以外の女性と楽しい時間を過ごしてしまったのだから。心配してくれている彼女を放置してしまったのだから。これは不貞と迄はいかなくとも不義理ではある。
取り敢えず、どうにかこうにか平謝りに謝罪して彼女の了承を得る事は出来たが、俺の心の中にある『しおりさん』の影を払拭する迄には到らなかった。