妄想世界に屁理屈を。


「アカネ?んだそりゃ…あんたの名前か?」


「ち、が」


“だありん、あんた、私わかんないの?”


久しぶりに聞いたアカネの声は、震えていた。



“聞こえないの?私の声が。ねぇ、黒庵――”



すがるように、話しかける。


「じゃああんたの名前は?」


…無視した。

妻の声を、最愛の人の声を。



届かないのだ。彼には。



繋がっているはずなのに、向こうが塞がっているせいで。


アカネがいくら叩いても、扉を固く閉じているため、彼に声は届かない。



「…黒庵さまぁっ!」



いつのまに流していたのか、涙でぐじゃぐじゃの顔。

小さいから胸が余計にいたくなる。


「わからないんですか!?こんなに近くにいるのに、アカネさまが…ひっ…ん…」



ガンガンと泣きまくる。

幼稚に、けど、健気に。


「何ないてんの、ガキ」


「うぅ…」


あまりにも冷たい声に、スズの目が曇る。

ぺたんと座り込んでしまった。


「…朱雀、柚邑殿、参りましょう」


スズの腕を優しくつかみ、そうっとお姫様だっこで抱き上げる。
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