妄想世界に屁理屈を。
◇◇◇
無言の車内。
死んだような空気が漂う中、向かったのは池だった。
昨日の公園の池じゃない。
水ならどこでもいいらしく、今回選んだのはまたまた公園の池だった。
昨日より規模は小さいけど、済んでいて鯉がいる。
池…か。
湖なら、アカネは喜んだんだろうな。
さっきから気配を感じないくらい喋らない。
これ以上ないくらい落ち込みまくってる。
車から降りると、スズの目の赤さが目にはいる。
こんな小さな子が傷ついてる。
そう思うだけで、胸が締め付けられた。
「柚邑殿、これを」
そうっと、手のひらサイズのメモ用紙をもらう。
青い紙が目について、そのあとこんな文字が見えた。
『太陽製薬会社 社長秘書
御黒庵 御先』
「な…に、これ」
「吾の名刺でございます。裏に電話番号がありますので、所用のさいにはなんなりと――」
「違う!この、この名前!」
御黒庵 御先
御先は頷けるけれど、御黒庵って…
「…吾をスカウトしにきた神々がたくさんいたんです。
だから、吾は黒庵さまのモノだと、証明したくて。
黒庵は少々おこがましいかと思い、御をつけさせて頂きました」
――こんなにまで、慕われているのに。