ロスト・クロニクル~後編~
その言葉は熱意が篭められたもので、いつもの不真面目なアルフレッドとは段違い。彼の話にシードは頷きながら聞き入ると、本当に勝負したいのか再度問う。それについてアルフレッドに迷いはなく、シードと戦えることはこれ以上ない光栄なことだと熱弁を続ける。
彼の熱意に、嘘偽りはない。語られる言葉の端々から伝わってくるのは、剣を扱う者として更に上を目指したいというもの。しかし、アルフレッドに特別扱いをするわけにはいかない。また、隊長という身分上何かと忙しいので、このようなことに時間を割く余裕はなかった。
「上の者と練習はどうだ」
「大丈夫でしょうか? 何と申しますか、エイルもシンも練習に付き合うのを嫌がっていまして……」
「馬鹿力ですから」
躊躇いなく平然と言い放つエイルに、シードとリデルが笑い出す。確かに、エイルの言い分もわからなくもない。あの丸太のように太い腕で剣を振るわれたら、身体ごと飛ばされてしまう。打撲程度で済めば幸いだが、裂傷や最悪骨折に至ったら笑いごとでは済まされない。
だからエイルやシンは、アルフレッドと剣の練習を行なうことを拒む。ただ、魔法は剣を使用しなくていいので、これに関しては行ってもいいとシードに説明する。また、遠慮なく魔法をぶっ飛ばせるから楽しい。この意見に対しても愉快だったのだろう、シードとリデルの笑いが続いている。
「わ、笑わなくとも……」
「本当に、こういう面でも信頼がないのだな。まあ、練習を行なうのは無理だが、隊員に頼んでおこう」
「宜しいのですか?」
「剣の腕を向上させる。これに関して、何ら批判する理由はない。ただ頼むだけで、反応は期待するな」
「で、ですね」
だが、忙しいシードがここまでしてくれるだけ、アルフレットにとって十分であった。これで何とか上手く交渉できれば、剣の練習に付き合ってくれるだろう。残念ながら剣と魔法の対決は適わなかったが、思った以上の収穫があったとアルフレッドは全身を使って喜ぶ。
「……現金だ」
その呟きは、アルフレッドの耳に届くことはない。短絡的というべきか楽観的というべきか、実に幸せな奴だとエイルは評価する。ストレスなど殆んど感じず生きているのだろう、エイルはアルフレッドを一瞥すると溜息を付き、このような生き方をしてみたいと思うのだった。