ロスト・クロニクル~後編~

「他の友人からは“悪友”と、呼ばれていました。あまりいい呼ばれ方ではありませんが……」

「それは以外だ。昔のお前とは違う」

「以前、兄さんにも言われました」

 だからといって、フレイは性格が変化したことを批判しているわけではない。以前のエイルは他者と関わることを拒んでいる雰囲気が強く、メルダースで友人を作り普通の学生生活ができているかどうか心配だったという。だが、息子の話でそれが取り越し苦労だったと知る。

 そして悪友と呼ばれている人物が、エイルを頼って遠い地にあるクローディアに訪れたということは、それだけエイルという人物に信頼があるという証拠になる。

 また、定期的に送られてくる手紙に書かれている内容から、有意義な学生生活を送っていることを知ることができた。息子を成長させてくれたメルダースの教師達に感謝していると、フレイは言う。

 だが、フレイは肝心な部分を知らない。

 そう〈マルガリータ〉の存在を――

 真面目そのもののフレイに、あの地上最強で最低のマルガリータを話してはいけない。クローディアは隣国の干渉を受けている中で、マルガリータの存在を話したらどうなってしまうか。

 幸い、マルガリータは国境付近で炭になって永眠しているので一大事に発展しないが、あの植物を生み出した元凶がクローディアに滞在――いや、最悪の場合は借金返済後も永久に居座る可能性が高い。だから、口が裂けても〈マルガリータ〉という名前を口にしてはいけない。

「で、お前の悪友は?」

「悪友って……」

「そのように呼ばれていたのだろう」

「そうですが、父さんには悪友と呼んで欲しくないので……できれば、普通でお願いします」

「そうか。お前がそのように言うのなら」

「……お願いします」

 相手をからかいどうこうする性格ではないので、このような場合フレイの正確は有り難い。悪友改め友人と訂正すると、現在話の中心人物ラルフが今何をしているのか尋ねてくる。

 エイルはラルフの性格が気に入らないのだろう、肩を竦めつつ貴族の生活を満喫しているということを話していく。この邸宅はラルフの実家ではないので多少遠慮をしないといけないのだが、彼の考えの中に「遠慮」という単語は存在していないらしく、自分の実家のように寛いでいた。
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