ロスト・クロニクル~後編~

 父親が発する言葉からして、アルフレッドは両親から信頼されていないのは手に取るようにわかる。だが、母親の方は息子が帰って来たことが嬉しいのか目元を押さえている。しかし目の前にいる中年の男女が、アルフレッドの両親とは信じられなかった。正直に言って、全く似ていない。

 アルフレッドは筋肉隆々の俗に言う「筋肉馬鹿」の肉体だが、彼の両親は筋肉体質ではない。牧場経営をしているということで仕事の中で筋肉は鍛えられるが、目立つ筋肉ではなく理想的な身体といっていい。それ以上に常識的な面を持ち、性格は息子と正反対である。

 この真面目な両親から、どうしてあのような厚顔無恥の人物が産まれたのか謎である。エイルは生暖かい表情を浮かべながら、三者三様の悲喜こもごものやり取りを遠巻きから眺めた。刹那、突如事件が発生する。何と、アルフレッドの母親が息子を力任せに平手打ちしたのだ。

 何の前触れもない攻撃にアルフレッドは避けるタイミングを失い、直に平手打ちを食らってしまう。攻撃と同時にエイルは間の抜けた声を出し、どのように反応していいのか迷いオドオドとするしかできなかった。一方アルフレッドは突然の攻撃に、目を白黒させている。

「お、お袋」

「どうして、連絡してこなかったの」

「いや、親父とお袋の反対を押し切って飛び出した手前、連絡しにくくて……したら怒られるし」

「そういう場合でも、母親だけには連絡するものよ。貴方は何処で何をしているのか、心配だったわ」

「だから、反対を……」

「アルフレッド。おばさんの言っていることは正しいよ。この場合、お前が全面的に悪いね」

 見兼ねたエイルが横から口を挟むが、彼の指摘にアルフレッドは不満だったのか機嫌が悪い。てっきり自分の味方をしてくれると考えていたのだろう、愚痴を漏らす。このやり取りによりエイルの存在に気付いたアルフレッドの両親は、息子に共にいる人物が何者か尋ねる。

「友人」

「いえ、同僚です」

「お、おい」

 キッパリと友人を否定するエイルに、アルフレッドが縋る。だが、エイルは縋られれば縋られるほど引き離し「同僚」の部分を強調していく。するとエイルの「同僚」という発言に彼の両親が食い付き、息子はどのような場所で働き真面目にやっているのかどうか問う。
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