ロスト・クロニクル~後編~

 アルフレッドに誘われ、エイルが最初に挑戦するのは家畜の毛刈り。その対象となる家畜は、ふかふかした白い毛を身体の周囲に生やしている顔が黒い羊。現在、羊は青々とした牧草地に放牧されているので、エイルはアルフレッドの案内で羊が放牧されている場所へ向かう。

 燦燦(さんさん)と降り注ぐ陽光が気持ちいいのか一部の羊は目を閉じ休み、休んでいない羊は牧草を美味しそうに食んでいた。アルフレッドは放牧されている羊を一通り見回すと、何を思ったのか木製の柵を乗り越え牧草地に立ち入り、毛刈り用の羊を一匹捕獲してくると無茶を言い出す。

「大丈夫か?」

「心配してくれるのか?」

「いや、羊の方を心配している。お前のことだから、羊を脇に抱えてくるんじゃないかと……」

「おい! そんなことはしない」

「それならいいけど」

 一応、アルフレッドの言葉を信用するが、日頃の彼の生活と尚且つトラブルを誘発するタイプなので油断できない。エイルは一箇所に集まっている羊の群れに向かって突き進んでいるアルフレッドの後姿に視線を送りながら、毛刈り用の羊がやって来るのを静かに待つ。

 アルフレッドが毛刈り用に選んだ羊は、普通より毛の量が多い羊だった。見た目はコロコロとして可愛らしい生き物だが、この量の多い毛が重いのか歩き方がヨタヨタとしている。その羊をアルフレッドが後方から押しながら、エイルが待つ場所へ連れて来るのだった。

「ほら」

「大きい」

「大半が、毛の膨らみだ。素人のお前が毛を刈りやすいように、一番毛が多い羊を選んできた」

「それは嬉しいけど、毛の量が多すぎないか? 何というか、図鑑で見た羊と外見が違いすぎる」

「多分、こいつが特別なんだろう。他の羊は普通だ。さて、このハサミで毛を刈ってみよう」

「手本」

「おっ! そうだった」

 毛刈りの手本ということで、アルフレッドは慣れた手付きで羊を簡単に地面に横たわらせる。その手馴れた手付きにエイルは感動を覚えるが、流石牧場の息子と納得する。そしてエイルが眺めている間アルフレッドはハサミを取り出すと、モコモコしている毛を刈っていった。
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