ロスト・クロニクル~後編~

 がさつが代名詞であるアルフレッドの毛の刈り方は、繊細そのものといっていい。羊の方も刈られることが気持ちいいのか、暴れる素振りは見せない。突然現れた不審者に捕獲され暴れるのではないかと危惧していたが、アルフレッドは羊に懐かれている様子であった。

 これこそ、珍獣と呼ばれていたラルフと大きく違うところか。エイルは毛を刈るアルフレッドの姿に、水晶の発掘場所で借金返済の為に働いている友人の姿を思い出す。もしこの場所にラルフがいたら捕まえる時点で逃げられ、最悪手痛い一撃を食らわされているだろう。

 羊に蹴り上げられ、明後日の方向に飛ばされるラルフの姿を想像したエイルは、思わず噴出し声を出して笑う。何か面白いことでもあったのかとアルフレッドは作業を続けながら尋ねるが、エイルは頭を振り何でもないということを伝え、このまま作業を続けて欲しいと頼む。

 しかし観のいいアルフレッドは何かあるのではないかと気付いたのだろう、何か愉快なことを想像していたのかと指摘する。見事としかいいようのない観の良さにエイルは嘘を付くのは得策ではないと気付き、メルダース在学時代の友人のことを思い出していたと話す。

「面白い奴か?」

「面白いといったら、面白いが……どちらかといえば、人間を超越した存在といった方が正しい」

「何だ、そいつ」

「前に、言った奴」

「前? ああ、就職を求めてやってクローディアに来たという奴か。で、確か水晶の発掘場所……か」

「そう、頑張っていればいいけど」

 貴族の一員であっても自分一人の力では就職先の斡旋は難しいので、態々父親に頭を下げ斡旋用の紹介状を書いて貰った。そして短期間で纏まった金を稼げるということで水晶の発掘場所を斡旋したので、二度目のクビになった木に吊るして魔法をぶっ飛ばしてやると言い放つ。

 エイルの危険極まりない発言に一瞬アルフレッドの背筋が凍り付くが、冷静さを装い刈り取った羊の毛を一箇所に集める。流石、大量の毛を持つ羊から刈り取っただけあって、採取された毛の量は尋常ではない。一方、全て刈り取られた羊は、別の生物といっていい姿を晒す。

 このような姿になってしまい寒くないのだろうと羊の体調を心配になってしまうが、当の羊は元気いっぱいでアルフレッドに擦り寄り懐いていた。だが、途中で懐くのが飽きてしまったのだろう、可愛らしく尻を振りながら仲間がいる方向に向かって駆け出していった。
< 92 / 223 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop