ロシアンルーレットⅣ【クライムサスペンス】
何事もなく夜は明けた。
と言っても、何事もなかったと断言できるのは、那智に起こされることなく朝を迎えたからだ。昨夜、俺は早々に眠りにつき、それからの記憶は全くない。
背もたれを起こして、小さく伸びをする。隣の那智はもちろん起きていて、不満げに細めた目でそんな俺をじっとりと見ていた。
「やあ、おはよう、那智くん。実にいい朝だね」
「そうですね」
一睡もしていないだろう那智は、心にもない同調を口にしフイと視線を逸らして前方を見る。そして、ハッとしたように目を見開いた。
「出て来た」
那智の早口に、未だ覚醒途中の俺の思考はついて行けず、何が? と訊き返した。
「初音だよ」
苛立たしげに答えた那智は、舌打ちまでしやがった。
「どこ行くんだ?」
「仕事だろ」
当たり前のように言えば、「こんな時間に?」と訊き返され、そこでようやく携帯に表示されている時刻に目をやった。
06:23。
確かに、出勤するには早すぎる。