鬼部長の優しい手




「…黛実ちゃん?」



泣きそうな事を悟られないように、
足取りを速める俺とは対照的に、
その場から、全く動かなくなった黛実ちゃん



…え?さっきまであんな余裕たっぷりに
微笑んでたのに、
あれ、俺なんかしちゃった?

そうして焦ってる間も、
黛実ちゃんが動く気配はなく、
俯いて、突っ立ったまま。




「…えーと、黛実ちゃん?
どうしたの?

え、俺の家来るのそんな嫌だった?」



「違う…!」


出来るだけ明るい口調で、
黛実ちゃんを刺激しないように言ったつもりだったけど、



なんかまた、やっちゃった感じだな…

…自分で言うのも、どうかと思うが、
顔はそこそこいい方だし、
気遣いもできるタイプだと思う。

本当、自分で言うのもどうかと思うけど!





…女の子の扱い方は心得てるはずだった。





…黛実ちゃん、君くらいだよ
こんなに思い通りにいかない子は。
君くらいだよ
俺をこんなに振り回すのは。
俺をこんなに、
情けなくするのは君だけだよ。




って、そんなこと考えてる場合じゃなかった。




「えっと、

違うってなにが?
どうしたの?」




「なんでよ…

なんでそんな普通に出来んのよ」




「…え?」



慌てながらも聞いた俺の言葉に、
黛実ちゃんはバッと顔をあげて
そう言った。



…きっと、黛実ちゃんは隠してるつもりなんだろうけど、


涙がたまって潤んだつり目がちの瞳、
震える声、



…それ、全部俺のせい…?




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