鬼部長の優しい手


「七瀬さっき
“私が彼女でよかったですか?”って聞いたよな?」

「は、はい」


真っ直ぐ私の方を向いて、そう言ってきた部長。

…そんな些細なことも、部長しっかり
覚えてるんだなー…
気を使わせてしまって、
…あんなこと言わなきゃよかった。と、
自己嫌悪に陥っていると部長は、
また目を細め微笑み、話を続けた。



「…お前に好きだと言ったときから、
“お前でいい”なんて言ってるんじゃない。
お前じゃなきゃダメなんだ。」


「部長…」

「言っただろ?
お前の隣にいる男は、俺でありたい。
この先ずっと。“その場所”は譲れない。」


微笑んでいた部長は、ふと真剣な顔をして、ジャケットのポケットから小さな箱
を取り出し、私の前で開いて見せた。

…嘘。
だって、そんな…っ。


「部長…それ…」

「…“お前の隣にいる男は、
俺でありたい。この先ずっと。”
って言葉は、こういう意味だ。
鈍感なお前のことだから、
ただの告白としか思ってなかったみたいだけど。」

そう言って、少し困ったように微笑んだ
部長は、今までで一番かっこよかった。

…もっと、部長の顔が見たいのに、
視界がぼやけて、全然見えない…



私の目の前で開かれた小さな箱の中には
控えめに輝くダイヤが、ついた綺麗な
指輪。


「サイズはたぶん大丈夫…なはず。
一応笠野にサイズを聞いたんだが…」


泣き出す私を見て部長はまた嬉しそうに
笑ってそう言った。


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