鬼部長の優しい手
「…七瀬、いつになったら
颯真って呼んでくれるんだ?」
さっきまで微笑んでいた部長は、
すねたような表情でそう言った。
…やっぱり、言わなきゃダメよね?
もう夫婦になるんだし。
でも、
「部長が私のこと、七瀬じゃなくて、
涼穂って呼んでくれたら私も部長のこと
颯真さんって呼びます。」
私だけなんて、ずるい。
微笑んでそう言った私の手をとり、
部長はまた優しく笑った。
「行こう、涼穂。
あ、間違えた。
…行こう、奥さん。」
…本当にずるい。
そんな甘い声でそんなこと言うなんて。
でも、やっぱり悔しいから、
「はい、颯真さん。
…いえ、
旦那様。」
私はそう言って部長の腕にしがみついた。