鬼部長の優しい手
「やったじゃん、七瀬ちゃん!」
「うん!」
自分のデスクに戻ると一番に
声をかけてくれた山本くん。
全開の彼の笑顔につられて、
私も笑ってそう答えた。
「いやー、それにしても
大抜擢だねー!最近七瀬ちゃん
成績もいいし。俺、結婚式挙げるとき
プランニング七瀬ちゃんにお願いしようかな」
なんて、いつもの人懐っこい笑顔で
言う山本くん。
「山本くんだって、評判のいい
プランナーじゃない。」
「いやいや、
俺なんてまだまだですよ~。
いや、ほんとにプランニング七瀬ちゃんに頼もうかな。
ね、どう思う黛実ちゃん?」
山本くんは、さらに笑顔になって
隣にいた黛実に声をかける。
「なんで、私に聞くのよ……」
「え?だって俺、黛実ちゃんと
式挙げるつもりだし、未来の奥さんの
黛実ちゃんの意見も聞いておこうと思って」
「ふざけんな」
山本くんの言葉に黛実はとたんに、
鬼のような顔をした。
相変わらず、山本くんは黛実に
猛アタック中だ。
バレバレなはずなのに、黛実は
全然気づいてない様子
時々、山本くんに同情する
それにしても、黛実もすごいなあ。
二年目でもう、三組の結婚式のプランニングを任されてたもん。
黛実に比べたら、当たり前だけど
私って、全然だなあ。
なんて、またいつもの癖の
自己嫌悪に浸ってしまう。
入社してから、ずっと感じる劣等感
この競争社会で生き抜く術は、私にはまだみについていない。
でも、まぁそんなこと考えたって
仕方ないしね、なんて自分の感情に蓋をして書類整理に戻った。