年下オトコたちの誘惑【完】
「はぁ。もういい。わかった」
「え」

なに?なにが、もういいの?なにが、わかったの?

ズキズキと痛くなる胸の奥。

「帰れ」

その一言。たった三文字なのに、帰ると言ったのは、わたしなのに。

いざ、そう言われると冬にできる氷柱(ツララ)。冷たい氷柱でザックリ胸を刺された気分になった。

いつもはギャーギャー騒いでも、こんなことにはならないのに。

やっぱりもう飽きちゃったのかな、こんなわたしに。

パッ‼︎と離された腕。急に軽くなっちゃって。

『やだっ、碧都‼︎ごめん‼︎帰れ、なんて言わないで‼︎』

心の中では、素直に言えるのに。いざ碧都の目を見ると、全然ダメ。出てこない。

「わかった…。また明日、ね」

出るのは、可愛げのないこんな言葉ばっか。

碧都の顔を見ることなく、靴を穿こうとしたわたしを碧都は、突然後ろから抱きしめてきた。

「それがお前の、杏の本心か?」

『そんなわけないじゃない‼︎』そう言いたいのに、大人げないオンナ。

「じゃぁ、俺の本心な?帰れって言ったのは、ウソ。帰ってほしいなんて、これっぽっちも思ってない」

やっぱり碧都のほうが、ずっとオトナ。素直にサラッと言うんだもん。
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