蝶々、ひらり。
彼女は俺を見つけると、自然に微笑んだ。
ふわりと風が揺れたような気がした。
途端に俺の心臓が、時を刻むことを思い出したかのように速度を増して振動する。
有紀。
有紀。
名前を呼びたいのに、声が出ない。
「大輔」
笑顔と共に俺の傍に寄る。
彼女の口から出た俺の名前は、特別な音色を持って響いた。
「来てくれると思わなかった。嬉しい」
満面の笑みでそう言う彼女に、俺は不思議ととてつもなく悲しくなってきた。
あまりにも、有紀が自然で。
もう俺は過去のものなのだと思えて。
今もなお激しく高鳴るこの鼓動は、俺だけのもの。
いや、最初からそうだったのかも知れない。
だって有紀の心は、ずっと坂上の元にあったんだ。
「ゆう、き」
ようやく出せたのはかすれた声だ。
「とりあえず、駅から出ましょう?」
彼女は相変わらずフレアースカートをはいていた。
歩くたびにふわりふわりと揺れるそれは、もう何のしがらみもない自由な美しい蝶に見えた。
「俺、車で来てるんだ」
「ホント? 乗せてくれるの」
「もちろん。実家に行けばいいのか?」
「うん。……ううん。少し街並みがみたいな。大輔と会うのも三年ぶりなんだもん」
彼女は少し戸惑いを含んだ笑みを見せ、駐車場に向かって歩き出した。