蝶々、ひらり。
「大輔?」
彼女の疑心に満ちた声音に、フェンスを持つ手が汗ばむ。
「俺はずっと有紀が好きだった。だからあの時、有紀を抱いた」
唾が口の中に溜まる。
喉に絡んで、声を出すのがひどくつらい。
「だけど、それは間違っていたのかも知れない」
「何……言ってるの?」
有紀の顔が歪む。さっきまでの笑顔が、もう見えない。
「有紀の失恋に付け込んで自分のものにして。だけど俺はずっと自信が無かった。有紀に好かれているなんて、どうしても思えなくて」
「大輔」
「東京に行くと言った君を、止めることもできず、追いかけることもできず」
確かめることさえ、怖かった。
本当は好きじゃない。
そう言われてしまうんじゃないかと思って。
「距離が忘れさせてくれるって思ってた。でも今日会って痛いほど感じたのは、まだ有紀が好きだってことだ」
「……大輔」
「本当は、あの時にこう言えたら良かったんだ。『振られてもいいから、自分の気持ち伝えて来い』って」
あの日、泣けなかった有紀。
思いっきり泣けたなら、良かったのに。
思いっきり泣いて、終わりに出来れば良かったのに。
それをさせなかったのは俺だ。
彼女の気持ちを、ずっと残るものにしてしまった。
ごめん。
ごめん、ごめん。
自分勝手に君を閉じ込めてしまって、本当にごめん。