蝶々、ひらり。
フェンス越しに見える職員室には明かりがついている。
もしかしたら坂上がいるかも知れない。
まだ有紀が奴を想っているのかどうかなんて知らないけど。
もしそうなら、取り戻せるのか?
今からでも、有紀の背中を押す事が出来るのか?
「大輔、聞いて」
その時、有紀の声が響いた。
ざわついた空気を切り裂くような、はっきりとした意思を持って。
見つめると、まっすぐに有紀が見つめ返してくる。彼女の瞳に映る俺は、ひどく情けない顔をしていた。
「私ね。あなたに会いに来たのよ」
言葉が出なかった。
だけどそうだ。
会えませんか? と、そう書いてあった。
俺は過去にとらわれて、その理由を聞くことさえ忘れていた。
ガシャリ。
有紀の指がフェンスを掴む音に、体がビクリと反応する。
こんな物音にさえびくつく自分がひどく情けない。
彼女から下される判決を、これほどまでに怖いと感じるなんて。
「色々、忘れてたなぁって思って」
有紀は校舎を見やりながら小さく笑った。
「何を?」
「たくさん。……ホントにたくさん」
「ハンカチとか? 俺、返してなかったもんな」
ポケットに入っているハンカチを俺は彼女に差し出した。
「持ってきた」
「え?」
驚いたように有紀は俺を見る。