瞳が映す景色

見知った顔と、もう一人、知らない顔も。なんだか陰気臭く見えるのは、隣の華やかな人がそうさせてるのか。


「こんにちは~。昼に顔を合わせるのは新鮮だね」


「いらっしゃませ。予約分は中だから取ってくる」


白鳥さんが受け取りにやって来て、陰気臭い男の人は少し離れた場所で待機していた。男のその両手に抱える荷物は大量で。


「ね、なんで白鳥さんは手ぶらなの?」


「ん? 僕はここのチキンを大切に運ぶ役目があるから~」


「あっちの人のケーキのほうがよっぽどだと思う」


「勘違いじゃない? ――ゲンちゃん、大丈夫だよねっ」


「っ、……」


……あの人が、噂のゲンちゃんなのか。


ゲンちゃんは、軽く頷いただけで相変わらず陰気臭い。眼鏡の奥の目は眠そうで、首に巻いたマフラーで口元が隠れていて表情が読めない。


睨みつけるみたいな視線に気付いたのか一瞬ゲンちゃんと目が合い、慌てて店内に逃げ込んだ。予約してくれていたチキンたちを袋に詰める。


あの人か。いつも白鳥さんに沢山構われ、心配され、なのに去年の今頃あまり呑めない白鳥さんをふらふらにさせて送り届けもしなかった人――そんな気持ちが出てしまってたから、あたしの視線に気付いたのか。


外に戻ると、もう一度確認する。チキンの量はかなり多い。


「大丈夫大丈夫。思ったより人が集まるみたいなんだ。美味しくいただだきます」


「だったらいいけど」


先月くらい、かなりの美少女とチキンを予約しに来た白鳥さんがいた。前年度の担任クラスの生徒で、流れでクリスマスパーティーをすることになったらしい。


内心新たなキャラ登場に狼狽えていると、前年度、担任、生徒。聞いて、もしかしてあの美少女が藁科さんかと思わず訊ねてしまった。

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