瞳が映す景色



――小さな頃、兄から、空から降る雨は神様の涙だと教えられた。


冗談のそれを、幼いあたしは真に受け、素直に信じ、雨が降るたび一緒に泣いてた。


世界中に降る涙。その質量に苦しくなり、神様が嘆くことが悲しかった。神様から見る地上が嘆くことばかりだから? 自分がいい子になったら全部救える? いや、自分にそこまでの価値はないけど、幾分かなら、和らげてあげられる?


幼い、けど卑屈で傲慢な感情で、一時ずっと空に語りかけていた、愛しくも恥ずかしい過去。


そういえば、雪には悲しまなかったな。凍っていれば別物と、そりゃ知識がないからそう認識しちゃうか。


クリスマスの夜、チキンやパーティーメニューはとうに完売し、通常の客足はまばらだった午後八時。アスファルトにうっすら積もる、見上げれば際限なく降る雪を見て思い出した。


僅かしか積もってないのに、誰にも踏み荒らされてなかった道路の雪は、足を入れるときゅっと独特の感触が伝わる。閉店作業はとっくに終わらせたけど、あたしの足は止まらない。


そこらへんからかき集めれば、手乗り雪だるまくらいは作れるだろうかとしゃがみこんだ。




「風邪ひいちゃうよ?」


「っ!?」


「って、昼間、僕言ったよね?」


雪積もる道路を気配なく歩いてこられるなんて、この男は妖精か何かか――あたしは振り返りながら可笑しな想像をする。


「……白鳥さんこそ、今日はいつもより薄着。風邪ひいちゃうよ」


「確かに。首元って、やっぱり防寒大切だね~」


妖精や未知なるものって、存在云々は置いておいて、特別に思える。


この世に存在する白鳥さんは、未知云々は置いておいて、今のところ、どうやっても特別だと、その姿を目にするだけで胸が疼いた。

< 327 / 408 >

この作品をシェア

pagetop