潮にのってきた彼女
「いらっしゃい!」


体が洞くつに入った途端、岩壁に反響した声が次々と耳に飛び込んで来た。

アクアは、目の前にうろこの覆う下半身を折り曲げて座っていた。

傍らに赤々と火が揺らいでいる。
錆びた燭台に立てられたろうそくだ。

そのおかげで、洞くつの中はとても明るかった。


「ね、上見て」

「上?」


言われるまま上を向くと、そこには目をみはる景色があった。

岩の中は大きく空洞になっていて、天井は遥か高くに広がっている。
そしてその天井は、何か小さな色の塊で埋め尽くされていた。


「何だ、あれ……」

「すごいでしょ? あれ、全部が貝なのよ」

「貝……」


そう教えられてよく見れば、貝の形にしか見えなくなってくる。

巻貝、二枚貝、様々な種類で様々な色の貝殻が天井を埋め尽くしていた。


「あれは、何で……」

「わからないわ。全部、生きてはいないみたい。わたしがここを見つけた時から、天井は変わっていないから」


アクアは微笑んで天井を見上げていた。


貝殻はろうそくの光を反射し、神秘的な美しさを醸していた。

薄いのか、光を通しているものもある。まるで教会の窓にはめ込まれたステンドガラスだ。


貝なんて、数え切れないほど見てきたであろうアクアが、これほどまでに目を奪われているのだ。

一見暗く不気味に見えた洞くつは、宝石箱にも劣らぬ光と美しさを携えていた。
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