潮にのってきた彼女
「王は知っていたのよ。
その真珠は王の家系の家宝だったから。

真珠が願いを叶えてくれることも、叶えられる願いは物理的なものだけで、ひとの感情を動かすとか、そういうことはできないってこともね。


王は平和を望んでいた。けれど好戦的な隣国の王の感情は動かせない。戦争を終わらせる方法として考えられるのは、隣国を崩壊させることだけ……

臣下の誰もが思っていただろうけど、王はそれをしようとはしなかった。

一国を崩壊させるくらいなら、自国が降伏し、国を再建する方がましだと思って。


フルフィルパールが一個人の手に入れば、どんなことが起こるかもわかったものじゃないし。

脳と感情を持った生き物なら人間も人魚も同じ。欲の塊だから。
国のための願いを捧げるとは限らないのよね。


真珠を悪用されれば、絶対に傷つく者が出てくる。
国を崩壊させたくはない。

そんな理由から、王フルフィルパールの存在をなかったものにすることを決断したの。



ここからは言い伝え。

決断した王は真珠をあるひとに預けた。
信用のおける、あるひとに。

7つのうち6つの願いは使ってからね。
あとの1つは、そのひとの身に何かが起こった時のために。

王は自分がどれだけ咎められようと構わなかったけれど、そのひとのことはとても大切に思っていたそうだから」


アクアは息をついた。

亜麻色の髪がたなびいて、一瞬アクアの顔を隠す。


「そのひと、って……」

「うん」


正面から風が吹きつけ、再び現れたアクアの顔には哀しげな微笑みが浮かんでいた。


「王は真珠を、陸の人間に預けたわ。
青い目をしたその王の名は、ティート・シェルライン。わたしの祖父よ」


波の引いていく音が遠い目のアクアを包んだ。
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