シンデレラを捕まえて
比呂の姿が見えなくなると、穂波くんが大きなため息をついて座り込んだ。


「やべ、心臓がまだバクバクいってる。美羽さんが帰るって連絡よこしたきり帰って来ないって安達さんから聞いた時から、壊れるんじゃないかって勢いで稼働してたんだ」

「ご、ごめん」


聞けば、ユベデザインでも私がいなくなったって騒ぎになっているらしい。


「とりあえず、気分が悪くて休んでたってことにして連絡しなよ。みんなすごく心配してるから」


部屋に戻り、バッグの中から携帯を取り出す。びっくりするくらいの着暦と新着メールの数だった。


「わ、わあ!」


慌てて電話をかけ、電話を取った紗瑛さんに謝った。出先からわざわざ帰ってくれていた社長にも、何度も謝る。
「せめて連絡くらいはしてね」とやんわりと言われ、反省しきりだった。
客先に向かっていたという安達さんにも連絡し、謝る。
歩いている最中なのか、遠くに雑踏の音が聞こえた。


「よかった。宮田くんにも連絡した? 彼、すっごく取り乱してたから早く連絡してあげて」

「え?」


横で座っている穂波くんを見る。目が合えば「なに?」と言うように首を傾げた。手を伸ばして腕を触る。じっとりと汗ばんでいた。着ている服は仕事着のツナギで、よくみれば木くずがそこかしこについている。背中部分を見れば汗で色が変わってしまっていた。
もしかして、連絡を受けて仕事を放りだして来てくれたんだろうか。


「高梨さん、聞いてる? ちゃんと連絡した方がいいよ」

「あ、はい。すみません」

「あと、さ。彼、すごく必死だった。俺よりも君のことを大切に想ってるんだなって思ったよ、悔しいけど。だから、仲良くしなよ」

「あ……、あの……」

「これからは、同僚として仲良くしようよ。ね?」

へへ、と安達さんは笑って、電話を切った。


「……連絡、終わった?」


携帯の画面から、穂波くんへ視線を移す。気の抜けた笑顔を浮かべた穂波くんは、私の頭をそっと撫でた。


「何もなくて、よかった。ここに来るまで、生きた心地しなかった」


穂波くんは、社長から私の住所を聞いてここに駆け付けてくれたのだそうだ。
そんな彼に、私は比呂とどうしていたのか、話した。


「ふうん、そっか。顔つきが明るかったもんな、栗原さん」


穂波くんは納得したように頷いて、「よかったね」と私に言った。


「やっぱり、栗原さんらしくいて欲しいよね」

「うん」

「俺も、ほっとした」

「うん……。ん……」


穂波くんの顔が近づいてくる。それを、瞼を下ろして迎えた。柔らかく啄むキスを交わした。


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