シンデレラを捕まえて
「美羽さん!」


その時、大きな声がした。え? とみれば、顔色を変えた穂波くんが廊下の先に立っていた。


「帰って来ないって会社から連絡あって! 探してたんだ!」


走ってきた穂波くんは、そのまま比呂の胸倉を掴んだ。横で見ている私が怖くて足が竦むくらい、怖い顔。


「美羽さんに、何した!?」

「……何も、してねえよ」


両手を挙げて降伏の態勢を取った比呂は、穏やかに言った。


「乱暴にこの部屋に連れて来たのは認める。強引だった、悪かった。でも、お前が思ってる等な真似はしてない」


穂波くんが私に視線を向ける。穂波くんの迫力に押されて息を呑んでしまっていた私はコクコクと頷いて肯定した。


「お前がいいってさ、美羽は。はっきり振られたから、帰るとこだよ」


そう言って、比呂は胸元の穂波くんの手を解いた。


「お前にも嫌な思いさせたな。もう、しねえよ」


驚いたように目を見開いた穂波くんが、私と比呂を交互に見比べる。


「ただ、お前が美羽を泣かすようなことがあったら、貰いに来るから」


比呂がそう言うと、穂波くんが「ふん」と鼻を鳴らした。


「そんなチャンス、やらねえよ」

「なら、いい。じゃあな」


比呂が穂波くんの横を通り過ぎた。数歩歩いて、「あ」と振り返る。


「言い忘れてた。全くなんにもしてないわけじゃなかった。まあ、最後だし許してくれな」

「は?」


穂波くんが私と比呂を再び交互に見る。その焦った様子を見て、比呂は大きな笑い声を上げて去っていった。もう、振り返ることはしなかった。

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