シンデレラを捕まえて
連れて行かれた店は、海辺にあった。丸太を組んだ建物がとてもかわいらしい。手作りっぽい看板には『麺屋気楽』と書かれていた。


「麺屋?」

「パスタしかねえんだ、ここ。こんにちはー」


先に入って行った穂波くんが声をかける。「おー、穂波!」と中から大きな声がした。
後に続いて中に入り、店内を窺う。さして広くない店の中はほぼ満席状態だった。テーブルの隙間をすいすいと通りながらオーダーを取っている人が、穂波くんに駆け寄ってくる。


「どしたん。穂波がここに来るなんて久しぶりだよね」


私と年の変わらない女性だ。Tシャツにジーンズ。『気楽』と染め抜かれた紺のエプロンをつけている。
化粧気がなくて、にこにこと笑う顔が幼く見えてすごく可愛い。


「にひひ、デート」


穂波くんが、後ろにいる私を指し示す。目を見開いた女性に頭を下げると、彼女は「うそ!」と大きな声を上げた。


「穂波に彼女!? やだ、すぐ伝えなくちゃ!」


言うなり、奥の厨房の方へ走っていく。と、立ち止まって振り向きざまに、「そっちの席空いてるから、どうぞ!」と叫んだ。


「え、ええと?」


穂波くんを見上げる。くすくす笑っていた穂波くんは、「とりあえず座ろっか」と奥の席に移動した。
四人かけのテーブルと椅子は木で作られており、シンプルなデザインだった。ハーフリネンのブルーのクッションが置かれており、それがとても可愛い。


「素敵なテーブルね。木の感触もすごくいい」


栗色の天板を撫でながら言うと、「栗の木だよ」と穂波くんが教えてくれた。


「この木はね、使い続けているとどんどん黒褐色に変化していくんだ。それがまた、味があっていい。木の感触は」

「前に聞いた、オイル仕上げってやつね? 覚えた」

「おお、さすが美羽さん。正解です」

「すごく綺麗。きっとこまめに手入れしてるのね」

「そう。それも正解。ここの家具はどれも手入れがすごく行き届いてる。巧さん、几帳面な人だからなあ」


穂波くんが天板を撫でる。


「巧さん?」

「ここのオーナー。ああ、来た」


穂波くんが困ったように笑って視線を投げた。それを追うように見れば、黒のオールバックが良く似合う、強面の男性がどかどかと足音も荒々しくこちらに向かってくるところだった。穂波くんよりも大柄なのではないだろうか。Tシャツの袖からは丸太のようながっしりした腕が伸びている。さっきの女性と同じエプロンを身に着けているところを見ると、この店の人のようだけれど。


「おう、穂波! お前、女連れて来たんだってな。この子か!」


酷くドスの聞いた声。三白眼の瞳にぎろりと睨みつけられて、思わず身を竦ませる。


「ちょっと、やめてよ、巧さん。美羽さんが怯えてる」


穂波くんが言うと、男性は「おっと、すまん」と頭を掻いた。


「驚いちまったもんだからよ。ええと、初めまして。こいつの兄弟子の松浦巧(まつうら・たくみ)っていうモンです。この店のオーナーつうか、料理人もやってます」


大きな体躯をひょいと屈めて頭を下げる。声音もぐんと優しくなった。


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