シンデレラを捕まえて
「巧さん、幸恵さんがキッチンを長く空けないでって怒ってますよ」

「おっとすまん。じゃあ、ごゆっくり」


巧さんはバタバタと奥へと戻って行った。


「いらっしゃいませ」


綺麗な長い黒髪を高めのポニーテールにした女の子は、可愛らしいドイリーのコースターと水の注がれたグラスを置いた。


「お久しぶりです、穂波さん」

「あれ? 優真(ゆま)じゃん、久しぶり! なんだ、ここでバイトしてるのか」

「だって、穂波さんが雇ってくれないから」


優真と呼ばれた女の子は、つんと顔を背けた。切れ長の瞳と、すっと通った鼻梁が涼しげな印象を与える、はっとするような美人だ。年は大学生くらいだろうか。


「俺、人を雇う余裕なんてねえもん」

「うそ。今、大塚先生が手伝ってるって聞いたもの。私も手伝わせてくれたってよくないですか?」

「えー、大塚先生だけで充分だもん」

「けち」


べ、と赤い舌を出して、優真さんはぷいっと席を離れて行った。


「あの子は俺の後輩で、大塚先生の教え子なんだ。建築科の三年で、春からは家具製作会社に行くことも決まってる。前に母校で講師の真似事みたいなことして以来、懐かれてるんだ」


ということは、高校生か。大人っぽい子だなあ。穂波くんの説明を聞きながら、彼女の凛とした後姿を眺めた。

うーん、多分、懐いてる以上の感情があるような気がする……。私の方を一度も見てくれなかったし。


「あ、ほら。これさ、面白いんだ」


穂波くんがグラスの下のコースターを取って笑う。


「面白い?」

「これ、幸恵さんと巧さんの手編みなんだ」


マーガレットのような模様のドイリー編みはすごく可愛い。幸恵さんが編むと言うのはよく分かる。けど。
さっきのあの強面さんまでも!?


「巧さん、巧さんもなの?」

「そう。夫婦で仲良くちまちま編むって聞いたもん。これはどっちの作品だろうなあ」


びっくりしてコースターをまじまじと見つめてしまう私を見て、あはは、と穂波くんは笑う。
だって、あの大きな手が、太い指が、細い鈎針を握ってちっこい編み目を拾ってる姿なんて、想像できない。


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