シンデレラを捕まえて
近くにある茶房に入った私たちは、日当たりのよい窓際の席に向かい合うようにして座った。
きな粉と黒蜜がたっぷりかかったくず餅と抹茶が私の前に、セシルさんの前には艶々の小豆がのった豆かんと珈琲が並んだ。


「お、さすが美羽ちゃんオススメの店。美味しそうだね」

「甘さ控えめなんで、いくらでも食べられますよ」


竹製のデザートフォークを手にした私は、目の前で優雅にカップを傾けている男性を窺った。


「それで、あの。私への用事って、何でしょうか」

「それは後回しにするとして、美羽ちゃんの質問を先に聞かせてよ」

「え、えー、と」


指先で細いフォークをくるくる回しながら言葉を探す。
そういう風に聞かれたら、どう話を切り出したものかわからない。そんな私を、セシルさんは愉快そうに眺めていた。


「あ、そうだ。あの、セシルさんと……穂波くんは私がその、二股をかけられているって知ってたんですか?」

「うん」


セシルさんはあっさりと頷いた。


「送別会の一ヶ月くらい前、だったかな。エステ部の子たち何人か、もちろん上毛さんも一緒だったんだけど、彼女たちが店に来てくれたときにね。余りに大きな声で話してるものだから」


浮気してた、許せない、と薫子さんはひどく怒っており、周囲がそれを宥めるという感じだったようだ。


「そこから先はまあ、君を辞めさせようとかそんな話をしていてね。随分お酒が入っていたから、酔って言っているだけかなと思ってたんだけど……。本当に美羽ちゃんの送別会があるって聞いた時は驚いたよ」

「そうなんですか……」


送別会の一ヶ月前と言えば、比呂にボンヌを辞めてくれと言われた頃だ。あの言葉の陰には、薫子さんがいたのかもしれない。


「何事もなく終わるようなら口出しするつもりはなかったよ。それは穂波も一緒だった。だけどちょっと酷い雰囲気になったからね、穂波はつい動いちゃったんだと思う」


そこで、ふう、とセシルさんはため息をついた。


「にしても、あんな助け方はないよね」

「あー……」


思わず顔が真っ赤になってしまう。わらび餅にフォークをぐさぐさと刺してしまった。


「俺も驚いたよ。あんなことするような奴じゃないのにね、穂波」

「え、えーと、その……」

「美羽ちゃん、怒ってない?」

「え?」


フォークを動かす手を止めて訊く。セシルさんは「俺たちの事だよ」と続けた。


「人前であんなこと……したのは穂波だけど。ほら、俺もあいつの嘘に真実味持たせようと加担しちゃったでしょう。いくら美羽ちゃんが泣きだしそうだったとは言え、やりすぎたかなって反省してるんだ、俺は。
君の意思も確認せずに、ごめんね」


と、セシルさんは申し訳なさそうに言って、頭を下げた。


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