シンデレラを捕まえて
「そ、そんな。私、あの時すごく助けられました。二人がいたから、みっともなく泣かずに済んだんです。本当に、ありがとうございました」


慌てて言って、深々と頭を下げた。そんな私に、セシルさんはよかった、と笑ってくれた。


「それを聞いて安心したよ。じゃあ、穂波のことも、怒ってない?」

「穂波、くん……」


改めて訊かれ、つい色んなことを思い出してしまう。頬が益々赤くなるのが分かった。

このところ、私の頭の中を占めているのは、穂波くんだった。

本を読んでいても、家事をしていても、頭の中はふっとあの晩に戻ってしまう。
穂波くんの言葉とか、表情とか、そういったものがまざまざと蘇ってくるのだ。

どうして穂波くんは、私にあんなことをしたんだろう。
どうして穂波くんは、私に優しくしてくれたんだろう。

思い出せば思い出すほど、考えれば考えるほど、彼の存在が私の中で大きくなっていく。
口ごもった私を見て、セシルさんが眼鏡の奥の瞳を楽しそうに細めた。


「怒ってない、みたいだね」

「あ、あの。セシルさんは穂波くんから何か訊いてたり、するんでしょうか?」

「あの晩のことに関してなら、特には。穂波も言いたがらないし」


セシルさんはコーヒーを一口飲んで続ける。


「それに、あいつも本職が忙しくなったみたいで最近会ってないんだ。連絡も減ったなあ」

「本職?」


思わぬ言葉に反応してしまう。GIRASOLの社員さんだと思っていたのだ。


「そう。穂波はね、暇な時とかにふらりとやって来ては、バイトをしてくれてたんだ。本職は別にある」

「そうだったんですか」


そういえば、私は穂波くんについて何も知らない。


「穂波とそういう話してない?」

「はい」


話をするような余裕がなかったです、とは言えない。


「気になる?」


くすりとセシルさんが笑った。

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