シンデレラを捕まえて
「あ、ええと」

「まあ、本人の口から聞くといいよ」

「本人、と言われましても……」


連絡先なんて、知らないのだ。知っていても、コンタクトを取る勇気があるかどうかはまた別の話だけれど。
あんな風に逃げ出した私を、穂波くんはどう思ってるだろう。怒ってる? 呆れてる? それとも、どうでもいいと思ってる? どれもありそうで、でもそうであってほしく無くて怖い。


「連絡先、教えようか?」

「あ、いえ、その」


どうせ、コンタクトを取ることはできない。自分のヘタレ具合は自分が一番よく知っている。

でも、教えてもらっていた方がいいかな。私の性格だと後で絶対もやもやしそう。
聞かないと、穂波くんとはこのまま終わってしまう。だけど、どんな感じで連絡しろって言うの。
私の葛藤を知ってか知らずか、セシルさんは笑った。


「まあ、訊きたくなったら俺に連絡してくれたらいいよ。はいこれ、名刺」

「わ。ありがとうございます」


有難く頂いた。都築正識……。へえ、セシルさんって漢字だと『正識』って書くんだ。


「さて、本題なんだけど」


セシルさんの言葉に、名刺に落としていた瞳を上にあげた。


「はい、なんでしょう」

「美羽ちゃんはもう次の仕事見つけてる?」

「あ、いえ、まだです。そろそろ探そうかと思っているんですけど」

「そう、よかった。実はね、知り合いの会社が事務兼雑用をこなせる子を探しててさ。美羽ちゃんにぴったりな仕事だなあと思って」

「え、本当ですか」


思わず身を乗り出した。


「小さなデザイン会社なんだけど、俺の店の内装を請け負ってもらった縁で今も親しくさせてもらってるんだ。で、そこの社長からいい子いないー? って訊かれて、ぱっと思いついたのが美羽ちゃんだったんだよね」

「デザイン会社、ですか……。私、デザイン関係の知識なんて全然ないんですけど、いいんでしょうか」

「うん。社長からの条件は雑務の経験がある子、ってことだけだったから。美羽ちゃん、ボンヌでそういう仕事してたでしょう?」


頷いた。はい、しておりました。


「じゃあ、どうかな? せめて面接だけでも行ってみない?」

「では、お言葉に甘えて、行かせて頂きます」


次の仕事の事を考えなくちゃと思ってた矢先に、何てありがたいお話だろう。
セシルさんの紹介だったら変な会社ではないだろうし、前の職歴を生かせるかもしれないというのはすごく嬉しい。

よろしくお願いします、と頭を下げた。


< 24 / 128 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop