シンデレラを捕まえて
そうして、就業時間の五分前。そろそろかなあとキッチンに戻り、支度をしているとバッタンとドアが激しく開く音がした。
うん、時間ぴったり。
トレイにマグカップを乗せて事務所に戻ると、出入口のところでいつものように膝をついている人がいた。
「おはようございます、安達さん」
「お、おは……うぇっ、きつ!」
ぜいぜいと肩で息をしているのは、デザイナーの安達遠矢さんだ。男性にしては小柄な方で、体つきも華奢。顔立ちは少し童顔で、大きな黒縁の眼鏡がしっくりと似合っていて可愛い。私より二つ年上だというのに年下に見える。
そんな安達さんはいつも時間ぎりぎりに駆け込んでくる。
電車のダイヤが悪いというのが本人の弁だけれど、一本早めればいいだけでしょうが! と紗瑛さんに叱られている(早める気はないらしい)。なので、いつも息を切らせて駆け込んでくるのだ。
この四名(プラス私)がユベデザインの全メンバーである。
入社二週間目の私の出来る仕事は、電話応対と簡単な書類整理だ。玉名さんの横のデスクを与えてもらい、毎日玉名さんに仕事を教えてもらっている。
「……はい、かしこまりました。ではそのように常盤に伝えます」
ノートに用件を書き込んでいく。紗瑛さんは客先に出向いており、不在だ。
経理である玉名さんを除いて、みんな客先や現場に出向くことが多い。日中はデスクにいない時間の方が長いかもしれない。電話応対の数はその分多かった。
「はい、では失礼いたします」
通話を終えた後、ノートの内容を黄色のメモ用紙に書き写していく。
「ん? 高梨さん、それってメモの色を変えてる?」
玉名さんが私の手元を見ながら訊いた。
「あ、はい」
私は電話の脇に分厚い付箋メモ帳を置いていた。分厚いメモ帳は五色の層になっていて、私はその色を人別に使い分けているのだ。社長が青、紗瑛さんが黄色、安達さんがピンクで玉名さんは白。残った紫を自分用。色で分けた方がイメージとして記憶に残りやすいし、間違えにくいのだ。
ノートを取るのは自分の控え用。二度手間のようだけれど、これが一番仕事を覚えやすい。
「ふうん、これはなかなかいいね」
玉名さんに褒められて、私はえへへ、と笑った。
これはボンヌで覚えたやり方だ。
三部門の仕事を混同しないように、メモ類などは色分けしていたのだ。
教えてくれたのは椋田さんだった。
このアドバイスのお蔭で、入社したての私のミスは段違いに減ったんだった。
あんなことがあったけれど、やっぱり私を成長させてくれたのは椋田さんだったなあと思う。尊敬していたことに後悔はない。
うん、時間ぴったり。
トレイにマグカップを乗せて事務所に戻ると、出入口のところでいつものように膝をついている人がいた。
「おはようございます、安達さん」
「お、おは……うぇっ、きつ!」
ぜいぜいと肩で息をしているのは、デザイナーの安達遠矢さんだ。男性にしては小柄な方で、体つきも華奢。顔立ちは少し童顔で、大きな黒縁の眼鏡がしっくりと似合っていて可愛い。私より二つ年上だというのに年下に見える。
そんな安達さんはいつも時間ぎりぎりに駆け込んでくる。
電車のダイヤが悪いというのが本人の弁だけれど、一本早めればいいだけでしょうが! と紗瑛さんに叱られている(早める気はないらしい)。なので、いつも息を切らせて駆け込んでくるのだ。
この四名(プラス私)がユベデザインの全メンバーである。
入社二週間目の私の出来る仕事は、電話応対と簡単な書類整理だ。玉名さんの横のデスクを与えてもらい、毎日玉名さんに仕事を教えてもらっている。
「……はい、かしこまりました。ではそのように常盤に伝えます」
ノートに用件を書き込んでいく。紗瑛さんは客先に出向いており、不在だ。
経理である玉名さんを除いて、みんな客先や現場に出向くことが多い。日中はデスクにいない時間の方が長いかもしれない。電話応対の数はその分多かった。
「はい、では失礼いたします」
通話を終えた後、ノートの内容を黄色のメモ用紙に書き写していく。
「ん? 高梨さん、それってメモの色を変えてる?」
玉名さんが私の手元を見ながら訊いた。
「あ、はい」
私は電話の脇に分厚い付箋メモ帳を置いていた。分厚いメモ帳は五色の層になっていて、私はその色を人別に使い分けているのだ。社長が青、紗瑛さんが黄色、安達さんがピンクで玉名さんは白。残った紫を自分用。色で分けた方がイメージとして記憶に残りやすいし、間違えにくいのだ。
ノートを取るのは自分の控え用。二度手間のようだけれど、これが一番仕事を覚えやすい。
「ふうん、これはなかなかいいね」
玉名さんに褒められて、私はえへへ、と笑った。
これはボンヌで覚えたやり方だ。
三部門の仕事を混同しないように、メモ類などは色分けしていたのだ。
教えてくれたのは椋田さんだった。
このアドバイスのお蔭で、入社したての私のミスは段違いに減ったんだった。
あんなことがあったけれど、やっぱり私を成長させてくれたのは椋田さんだったなあと思う。尊敬していたことに後悔はない。