シンデレラを捕まえて
* * *

家具職人さんは、大抵は田舎や郊外に工房を構えているらしい。
木材の管理の為に広い敷地を必要とするからというのが大きな理由だそうだ。

今向かっている家具職人さんも、△△町の山裾に工房があるという。
社長の運転するセダンの中で、少しだけ教えてもらった。


「今から会いに行く奴は、先代の頃からの知り合いなんだよ。先代は宮田重行っていう結構有名な職人でね。これが本当に腕のいい職人でねえ。事務所の応接セットはその宮田の爺さんに作ってもらったものなんだよ」

「あの応接セットですか! 私、あれすごく素敵だなって思ってたんです」

「いいでしょ、あれ。会社興すときに、記念に頼んだんだ。まあ、その爺さんも五年ほど前に亡くなっちゃってねえ」


社長は残念そうに眉尻を下げた。けれど、すぐに顔を明るくする。


「でもね、後継ぎがしっかりしてるんだ、これがまた。爺さんよりいい職人になるんじゃないかなあ」

「へえ、お会いするのが楽しみです」


車はどんどん市街地を離れ、山に近くなっていった。
景色は木と田んぼ、少しの民家といったものに変わっていく。このまま山に登っていくんじゃない? というところで、ようやく止まった。


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