シンデレラを捕まえて
「あれ? 二人とも知り合いか」


何も知らない様子の社長がそう言ったあと、「ああそうか。セシル繋がりか」と勝手に納得した。


「セシルさん……?」


穂波くんが私と社長の顔を交互に見る。


「あ、あの。私、セシルさんの紹介でユベデザインに入ったの」

「いつ、から?」

「二週間くらい前だよ。ね、美羽ちゃん」


私の代わりに社長が答えてくれる。


「知らなかった」


穂波くんの声が呆然としてる。


「セシルさん、そんなこと一言も言ってなかったのに」

「あいつも忙しいんだろうなあ」

「あー……、なんだこれ」


がりがりと頭を掻く。その声音は僅かに苛立っているようで、私は身を竦ませた。
あんな逃げ出し方をした私を、彼が良く思っているはずがない。どころか、彼の中ではあの晩のことは一夜だけの事であって、こうして会うことを快く思っていないのでは。
その時、彼が洩らした小さな小さな呟きが、私の耳にするりと届く。


「困るよ、これ」


社長の耳にも届かない。多分、穂波くんも私が聞こえていたなんて気付いていない。だけど、私は聞いてしまった。
そっか。困るよね、こういうの。
あんなことをした相手と仕事で関係しなくてはいけないって、迷惑なことだよね。

心に大きな重しが乗った。
迷惑がられても仕方ない。だけど、辛い。


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