シンデレラを捕まえて
ふっと、対角線上にいる二人を見た。

仕切るものも何もない開放的な空間だと、二人の様子は容易に窺えた。
大きな机に向い合せに立った二人は広げた書類に視線を落としていた。話の内容から察するに、藤代夫妻の持ち込んだ書類であるらしい。


「依頼主のイメージは掴めた。このデザインだと強度に難があるから補強が必要だけど、全体的な雰囲気は損ねないで済むんじゃないかな」

「家具に関しては心配しちゃいないさ。お前ならできるだろ。問題はカウンターキッチンでな。これがデザイン画と現場の見取り図」

「ふう、ん……。この柱が邪魔になるわけだ」


GIRASOLでは、屈託のない笑顔をいつも浮かべていた。怖そうな見た目を帳消しにしてしまうその笑顔は可愛らしくて、私にとっては年下の素直な男の子だった。

二週間前のあの晩は、私を捕食してしまいそうな、獣じみた色気を纏った男の顔をしていた。お腹の奥を刺激してくる扇情的な表情は、私の瞳を離さなかった。

そして今の顔は、また違う、新たなものだ。

紙面に落とす瞳も、顔つきも、私の知らなかったもの。
こんな顔して仕事をするんだ。そんな声音で話すんだ。
この工具たちを、彼はどんなふうに操るんだろう。どんな風に木に触れるのだろう。どんな風に作業するのだろう。

勉強だなんて言いながら、考えることは一人の事。
見つめているのはたった一人。
こんな自分を馬鹿だと思う。仕事に対する意識が低すぎる。情けないことだ。
それでも、どうしても穂波くんから瞳は離せなくて、意識は引き寄せられてしまう。


「ちょっと待ってて。このデザイン画のコピーとらせてもらう」

「おう。こっちも持って行け」


穂波くんが紙の束を掴んで自宅の方へ走り去っていった。
そこでようやく、私も息をつけた。意識を彼から切り離すことができた。

それから、幾つか設置されている機械を見て回った。
どんな用途で使われる物か分からないけれど、一つ一つが興味深い。
社長が言っていた爺さんと言うのは、穂波くんのおじいさんに当たるんだろうか。鉋にせよ、作業机にせよ、年季の入ったものが多かった。


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