シンデレラを捕まえて
「私がユベデザインにいて、迷惑なんじゃないの?」


訊けば、穂波くんはぶるぶると首を横に振った。


「何言ってんの! セシルさんにハグしたいくらい喜んでるって!」

「だって、ここに来てすぐのとき、困ったって言ってたじゃない」

「それは困るよ! 心の準備できてねえもん」


美羽さんが来るって分かってたら、もっとちゃんとしてた。と彼は唇を尖らせてぷいと横を向いた。
子供っぽい仕草と、言葉に思わず笑う。胸の奥がポカポカと温かくなり始めていた。


「ちゃんとって、どんな風にしてたの?」

「とりあえずツナギじゃねえよ。髪ももうちょっとマシにしてた。今日寝起きのまんまなんだ」

「そうなの? 全然気づかなかった」

「気付いて! そこは気付いて! いつも美羽さんに会うときは頑張ってるんだから、俺」


ぱっと穂波くんが私の方を向く、


「ん? それって冗談?」


首を傾げた。穂波くんとはGIRASOLで会ってはいたけれど、別に約束をとっていたわけではない。行けばたまたま穂波くんがいた、というだけのことだ。


「あ、いや、うん。いいや」


穂波くんは急に照れたように笑って、「それでさ、いいかな?」と訊いてきた。


「ゴハン、だよね。うん、いいよ」


頷くと穂波くんが「やった」と言った。


「俺、そっちまで行くよ。ユベデザインの近くに美味い店あるから、そこ行こう?」

「いいの?」

「もちろん。つーか、こっちには店ねえし」


確かに。ここに来るまでの道のりを思えば、納得するしかない。


「何時くらいに終わる?」

「十八時かな」

「分かった。その頃までにユベデザインに行くね。あー、と」


穂波くんはポケットの中からスマホを取り出して、「番号、教えて?」と訊いた。


「あ、うん」


簡単に番号を交換する。実は番号知ってるんだけどなあ、と思いながらも、初めて聞くふりをしてしまう。


「美羽ちゃん、帰ろうかー」


ひょいと社長が顔を覗かせた。


「あ、はい! ええと、じゃあ、また」

「うん。また、夜に」


穂波くんが笑う。彼に見送られて、工房を後にした。


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