シンデレラを捕まえて
* * *

十八時になって、安達さんと玉名さんの三人で会社を出た。
社長は書類作成、紗瑛さんは懇意にしている工務店さんと応接スペースで打ち合わせ中でまだ帰れそうな気配はなかった。


「じゃあ、私はあっちの方向ですので、ここで失礼」


帽子を取って会釈をする玉名さんを見送る。仕草の一つ一つがダンディだなあ、とその背中を見送った。


「高梨さんは駅利用だっけ。同じ沿線、じゃないよね?」

「はい」


会社を出る前に確認したら、穂波くんから連絡が来ていた。駅前で待ってくれているらしい。


「じゃあ、まあ行こうか」


二人で肩を並べて歩き出した。駅まで徒歩で五分程の距離だ。


「安達さん、毎朝この距離を全力疾走なんですよね」

「はは、うん。どうしてもねえ、ダイヤの為に十分早めるってことが出来ないんだよ。目が覚めるまでに時間が掛かっちゃって」


ずり下がる眼鏡を指で押し上げて安達さんが笑う。


「朝が弱いんですか?」

「そう。目覚ましを三つも用意してるのに、意味がない。いや、三つあるお蔭で遅刻は免れてるのかなあ」

「ふふ、そうかもしれませんね」


話をしている間に、駅舎が見えてきた。帰宅時間の最中のせいか、混んでいる。


「美羽さん!」


しかし、彼はあっさりと私を見つけ出してくれた。真っ直ぐに私に駆け寄ってきてくれた。


「わ、穂波くん」

「仕事、お疲れ様」


クロップドデニムにざっくりしたシャツ、麻のジャケットを着た彼は、昼間のツナギ姿とは雰囲気を違えていた。


「お、お疲れ様」

「あれえ、宮田くん」


私の横にいた安達さんがきょとんとした声をあげた。


「どうしたの、こんなとこで」

「こんちわ。いや、遊部さんとこに美羽さんいるって知らなくて、今日初めて知ったんですけど、嬉しくって誘っちゃいました」


にひ、と屈託なく笑う穂波くんに、「なんだぁ、知り合いだったの」と安達さんが言った。


「はい! だもんで、手を出さないでください!」

「な!?」


はきはきと答えた穂波くんに驚いたのは、私だ。何を言ってるの、この人は!
安達さんも驚いたらしい。ぽかんと口を開けた。


「え、ええと?」

「ダメですよ、安達さん。美羽さんは俺のです」


にか、と笑う穂波くんの前で固まった二人。勿論、私と安達さんだ。


「今から口説くんで、安達さんは帰って下さいね。お疲れ様でしたぁ」

「ちょ、ちょっと! 穂波くん、何言ってるの!」

「だって今から美羽さんの時間貰う約束だもん。減らしたくない」

「な!」


思わず顔が赤くなる。ダイレクトに何を言ってるの、この子は!

< 39 / 128 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop