シンデレラを捕まえて
「すっげえ嬉しい」


ジョッキをカチンと合わせると、穂波くんが本当に楽しそうに笑った。


「何より先に美羽さんの連絡先訊くべきだったのに、それをしなかった自分をマジで恨んだ」


あれから、穂波くんは私と連絡を取ろうと頭を振り絞って考えてくれたらしい。しかし、婚約者と言ってしまった手前ボンヌの人間には聞けない。そうこうしている間に仕事が忙しくなり、GIRASOLに行く暇もなくなってしまったのだそうだ。


「雨の時期は木材の管理も大変だし、なかなか時間が取れなくなって。で、時間が経てば美羽さんは俺が嫌だから逃げたのかなあとか考えだすようになってさ。自己嫌悪ばっかりだった」


落ち着いてきて、そろそろセシルさんのところに相談に行こうとしていた矢先が今日だったらしい。


「な、なんか、ごめんね。ありがと……」


私は恥ずかしさとか照れで居た堪れなくなっていた。だって、穂波くんの話の内容は全て『私』を探す為に彼が必死になってくれた、ということだ。


「え、えーと。そうだ、私、穂波くんの仕事のこと全然知らなくって。だから今日すごく興味深かったの。会社の応接セット、おじい様のお仕事なんでしょ?」


思わず話題を逸らした。あんな話を聞き続けられるほど私の神経は太くない。
穂波くんは私のそんな意図には気がつかずに頷いた。


「ああ、うん! もう二十年くらい前のやつなんだけど、味が出てすげえいい状態になってるよね。じいちゃんの自信作!」

「おじい様譲りだって言う工具もすごい数だったね。手入れ、大変なんじゃないの?」

「それ! 手入れってすごく重要なんだ。高校に入る頃まで、毎日鉋の研ぎしかさせてもらえなかったんだ、俺」


あの数の刃物類を管理するのは、思った通り大変なのだ。鉋などはものすごく細かいレベルでの数値を調整するものだから、日々の調整は不可欠であるらしい。
であるので、刃物類の研ぎというのは最重要項目で、これがきちんとできている、いないで職人としての腕も見極められてしまうものなのだそうだ。

穂波くんの両手を見せてもらった。
よくよく見れば、手のひらや指先にいくつも傷跡があり、ところどころタコができていた。研ぎを真面目にやってたらこんなもんだよ、と彼は笑った。


「でも、やらなきゃいけない。どれだけデザインが秀逸でも、いい材料を手にしても、腕が良くても、道具が悪かったら何もできない。コンマ何ミリの世界で勝負できる道具は、自分で作るしかないからね」

「穂波くんは、自分の道具に自信を持ってるのね?」

「持てるように、じいちゃんに仕込まれたよ。真剣に向き合えば、道具は裏切らないんだ」


にか、と穂波くんは笑う。


「スウェーデンでも同じだった。世界共通、仕事の種類は関係ないんだよ。道具を大事に出来ないやつは成長しない。道具の大切さを知らないってことは、それまでなんだってことだね」

「ふうん……」


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