シンデレラを捕まえて
今日は、紗瑛さんと一緒に会社を出た。

穂波くんは社長と設計図を覗き込んで作業をしており、帰りの挨拶をしてもおざなりな返答が返ってくるだけだった。私に関心がない、というよりも不機嫌に近くて、怒っているようにも見えた。

会社にいた僅かな時間で、私に対して苛立ちすらおぼえるようになっちゃったんだろうか。そこまで酷い仕事ぶりだった? それとも同じ空間にいるのも不愉快になってきた?


「こんなに明るいうちに帰るのって久しぶりだわー」


ついつい暗くなってしまいそうになる私の横で、紗瑛さんが晴れ晴れしく笑った。彼女はいつも退社時刻が二十一時過ぎなのだ。


「毎日遅くまでご苦労様です。私でお手伝いできることがあればいつでも言ってくださいね」

「今でも十分助かってるよ。でも、お願いすることも出てくるかもしれない。そのときはよろしくね」

「はい!」


紗瑛さんは事実婚の旦那さまがいる。旦那さまは一級建築士だそうだ。


「いずれは二人で理想の家を建てましょ、って言ってたんだけどね。このままだと二軒建てなくちゃ折り合いがつかないわ。お互い譲れないところとこだわりが多すぎるのよ」


紗瑛さんはおどけたようにぺろりと舌を出した。
理想の家では喧嘩になってしまうらしいけど、普段は仕事の相談もできるよいパートナーだという。あいつがいるから続けられてる部分もあるのよねえ、と紗瑛さんはしみじみと呟いた。


「いいですね。羨ましい関係です」

「あら、ありがとう。美羽ちゃんは、彼氏はいないわよね。安達が狙ってるくらいですもの」


何でもないところで躓いた。
よろけた私を、紗瑛さんがくすくすと笑いながら支えてくれた。


「な、なんでそれを」

「わかるわよ、そりゃ。安達との付き合いも長いしねえ。あいつ、結構なヘタレだから彼氏持ちに特攻かける勇気はないの」


ダメよねー、と紗瑛さんは笑い飛ばしたあと、ふっと表情を和らげた。


「でもまあ、いい奴よ。よかったら考えてあげてね」

「え、ええと、その」

「ねえ、これから暇? どっか飲みに行かない?」

「あー、それがその、先約がありまして……」


キラキラしていた紗瑛さんの顔が益々キラキラした。


「誰!? オトコ!?」

「あ、いや、女性です」

「なぁんだぁ」


つまんなーい、と紗瑛さんはぷう、と頬を膨らませた。


「御期待に添えなくてすみません。あ、でも今度飲みには行きましょう!」

「絶対よー?」


ふふ、と笑う紗瑛さんと、駅前で別れた。

私はそのまま、通い慣れた場所まで足を運んだのだった。


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