シンデレラを捕まえて
「そんなこと、ないよ。私は、その、迷惑かけたくないって言うか、どこまで甘えていいのか、分かんなくて」
どこまで踏み込んでいいのか、頼っていいのか。だって、迷惑になりたくないもん。そんなことをのろのろと言葉を選びながら言う。
私の存在が『重い』とか『キツイ』とか、そういうものになりたくない。嬉しい言葉を、想いをいっぱいくれる彼だからこそ、強くそう思う。この人がもし私から離れて行ってしまったら。そう考えると、怖くなってしまう。
「……ここに泊めてもらってるだけで、充分甘えちゃってるのに。比呂とのことまで穂波くんに頼るなんて、いけないなって思」
「お願い。そういうこと、言わないで」
言葉を遮るように、頭をぐしゃぐしゃと大きな手でかき回された。
「どうしたら、踏み込んでくれるの。俺は、美羽さんに踏み荒らされたって構わないのに」
声音が熱っぽいものに変わった。見上げると、穂波くんが小さく笑った。
「美羽さんに、もっと侵食されたいのに、俺は」
手つきも、変わった。指先が髪を絡め取り、梳く。こめかみから耳の後ろ、首筋に流れる。
「穂波、くん……」
さらりと流れた指先が首から鎖骨に流れた。窪みを撫でられて、くっと息を呑む。
「美羽さんは、俺をどう思ってる? 距離を、とっていたいの?」
「え……」
黒い双眸が私を捉える。
「俺も、美羽さんのこと侵食したい。そういうの、美羽さんは望んでない?」
「わ、たし……」
指先が離れ、唇に触れる。指腹で柔らかく撫でられる。その感触はいつだって、嫌いじゃない。ふるふると震えてしまうのを自覚した。
「ほ、穂波くんだって、距離、とってるじゃない……」
「え?」
「昨日の夜、だって、途中で、やめた、し……」
こんなことを口にして、恥ずかしくないわけがない。羞恥で消えいってしまいそうだった。顔はきっと真っ赤に染まっている。
だけど、本心だ。
穂波くんが微かに瞳を見開いた。
「して、よかった?」
「…………」
「……俺たち、体を繋げるところから始まったから、俺、美羽さんにつけこむことばっかりだったから、だから気持ちを大切にしないとって」
「……うん。それは、すごく分かってるの。それは、嬉しいと思うの。だけど……」
だけど。
穂波くんを見上げた。
果たして、穂波くんがそっと唇を動かした。
「俺は美羽さんが欲しい。美羽さんは、俺の事、欲しいと思ってくれる?」
唇に触れていた温もりが、ふっと離れた。たったそれだけなのに、私の口からは言葉が引き出されてしまう。
「ほ、しい」
溢れた言葉に、自分で驚く。だけど、言葉はまだ溢れる。
「穂波くんが、欲しい」
「うん」
頬に手のひらが触れる。穂波くんの顔が近づいてきた。
薄く開いた唇が、私の唇を塞いだ。
どこまで踏み込んでいいのか、頼っていいのか。だって、迷惑になりたくないもん。そんなことをのろのろと言葉を選びながら言う。
私の存在が『重い』とか『キツイ』とか、そういうものになりたくない。嬉しい言葉を、想いをいっぱいくれる彼だからこそ、強くそう思う。この人がもし私から離れて行ってしまったら。そう考えると、怖くなってしまう。
「……ここに泊めてもらってるだけで、充分甘えちゃってるのに。比呂とのことまで穂波くんに頼るなんて、いけないなって思」
「お願い。そういうこと、言わないで」
言葉を遮るように、頭をぐしゃぐしゃと大きな手でかき回された。
「どうしたら、踏み込んでくれるの。俺は、美羽さんに踏み荒らされたって構わないのに」
声音が熱っぽいものに変わった。見上げると、穂波くんが小さく笑った。
「美羽さんに、もっと侵食されたいのに、俺は」
手つきも、変わった。指先が髪を絡め取り、梳く。こめかみから耳の後ろ、首筋に流れる。
「穂波、くん……」
さらりと流れた指先が首から鎖骨に流れた。窪みを撫でられて、くっと息を呑む。
「美羽さんは、俺をどう思ってる? 距離を、とっていたいの?」
「え……」
黒い双眸が私を捉える。
「俺も、美羽さんのこと侵食したい。そういうの、美羽さんは望んでない?」
「わ、たし……」
指先が離れ、唇に触れる。指腹で柔らかく撫でられる。その感触はいつだって、嫌いじゃない。ふるふると震えてしまうのを自覚した。
「ほ、穂波くんだって、距離、とってるじゃない……」
「え?」
「昨日の夜、だって、途中で、やめた、し……」
こんなことを口にして、恥ずかしくないわけがない。羞恥で消えいってしまいそうだった。顔はきっと真っ赤に染まっている。
だけど、本心だ。
穂波くんが微かに瞳を見開いた。
「して、よかった?」
「…………」
「……俺たち、体を繋げるところから始まったから、俺、美羽さんにつけこむことばっかりだったから、だから気持ちを大切にしないとって」
「……うん。それは、すごく分かってるの。それは、嬉しいと思うの。だけど……」
だけど。
穂波くんを見上げた。
果たして、穂波くんがそっと唇を動かした。
「俺は美羽さんが欲しい。美羽さんは、俺の事、欲しいと思ってくれる?」
唇に触れていた温もりが、ふっと離れた。たったそれだけなのに、私の口からは言葉が引き出されてしまう。
「ほ、しい」
溢れた言葉に、自分で驚く。だけど、言葉はまだ溢れる。
「穂波くんが、欲しい」
「うん」
頬に手のひらが触れる。穂波くんの顔が近づいてきた。
薄く開いた唇が、私の唇を塞いだ。