シンデレラを捕まえて
そっと、手を伸ばした。比呂の頭を抱きしめる。びくりと大きく比呂の体が震えた。
ゆっくりと頭を撫でる。くしゃくしゃの髪を何度も梳きながら、何度も。
「大丈夫だよ。比呂は、大丈夫。だって、私が好きになった人だもん。大好きだった人だもん」
繰り返し言う。比呂は黙って、私のするままになっていた。
広い背中にも手を伸ばして、そっと撫でた。
「かっこよくって、笑顔が素敵で、誰よりもキラキラしてる。付き合ってる間ずっと、自慢の彼氏だったよ。
少しくらい、躓いたっていいじゃない。だって何もかも上手く行くなんて、ずるいよ。いいもの沢山持ってるってだけでも、すごいのに」
「……努力だって、してたさ」
くぐもった声がした。
「うん。誰よりも遅くまで練習してたよね。練習会の出席率は比呂が一番よかった。講習会も、一生懸命受講してたよね。講師の先生がすごく熱心だって褒めてたよ。
比呂のお客様カルテは誰よりも細かく書き込まれてたのも、ちゃんと知ってる。
休日も、毎朝の新聞チェックは欠かさなかったね。難しい話題でもついていけて、自分の意見まできちんと言える比呂の事を信頼してるお客様は、いっぱいいたよ。
大好きな人のことだもの、ちゃんと見てたよ。頑張ってる比呂の姿は誰よりかっこよかった」
比呂が小さなうめき声を洩らした。私を抱く手に力が籠もる。肩に濡れた感触がある。
私は黙って、比呂の背中を撫で続けた。
どれくらい、そうしていたんだろう。
「俺、何でお前を裏切ったんだろ……」
長い時間の果て、濡れた声で比呂が呟いた。
「ごめんな、美羽。ごめん……」
「いいんだよ、比呂。もういいの」
何度も「ごめん」と言う比呂に、「いいんだよ」と応える。
「私のことは、もういいんだよ。だから、お願い。元の比呂に戻って。私の好きだった比呂に戻って」
比呂が少しだけ体を離した。目元を乱暴にこすり、鼻を啜る。
「馬鹿だよ、お前」
「どうして?」
「さっきまで犯されかけてたんだぞ。どうしてそんなこと、言えんだよ」
「だって比呂、しなかったじゃない」
「するつもりだったよ」
「でも、しなかったもん」
笑うと、比呂はまた「馬鹿だよ、美羽は」と言った。その声は少しだけ明るかった。
それから比呂は、私の横に座り、はあ、とため息を一つついた。
私に手を差し出し、「起きろよ」と言う。手を取って起き上がった私は、比呂と向かい合うようにして座った。
目の周りを赤くした比呂は、私を見て優しく眼を細めた。
「馬鹿は、俺だよな。どうしてお前を傷つけるような真似したんだろ。美羽は、俺の事こんなにも見てくれてたのに」
何とも言えずに、笑った。
「ごめんな。ほんとに、ごめん」
「もう、いいよ」
ゆっくりと頭を撫でる。くしゃくしゃの髪を何度も梳きながら、何度も。
「大丈夫だよ。比呂は、大丈夫。だって、私が好きになった人だもん。大好きだった人だもん」
繰り返し言う。比呂は黙って、私のするままになっていた。
広い背中にも手を伸ばして、そっと撫でた。
「かっこよくって、笑顔が素敵で、誰よりもキラキラしてる。付き合ってる間ずっと、自慢の彼氏だったよ。
少しくらい、躓いたっていいじゃない。だって何もかも上手く行くなんて、ずるいよ。いいもの沢山持ってるってだけでも、すごいのに」
「……努力だって、してたさ」
くぐもった声がした。
「うん。誰よりも遅くまで練習してたよね。練習会の出席率は比呂が一番よかった。講習会も、一生懸命受講してたよね。講師の先生がすごく熱心だって褒めてたよ。
比呂のお客様カルテは誰よりも細かく書き込まれてたのも、ちゃんと知ってる。
休日も、毎朝の新聞チェックは欠かさなかったね。難しい話題でもついていけて、自分の意見まできちんと言える比呂の事を信頼してるお客様は、いっぱいいたよ。
大好きな人のことだもの、ちゃんと見てたよ。頑張ってる比呂の姿は誰よりかっこよかった」
比呂が小さなうめき声を洩らした。私を抱く手に力が籠もる。肩に濡れた感触がある。
私は黙って、比呂の背中を撫で続けた。
どれくらい、そうしていたんだろう。
「俺、何でお前を裏切ったんだろ……」
長い時間の果て、濡れた声で比呂が呟いた。
「ごめんな、美羽。ごめん……」
「いいんだよ、比呂。もういいの」
何度も「ごめん」と言う比呂に、「いいんだよ」と応える。
「私のことは、もういいんだよ。だから、お願い。元の比呂に戻って。私の好きだった比呂に戻って」
比呂が少しだけ体を離した。目元を乱暴にこすり、鼻を啜る。
「馬鹿だよ、お前」
「どうして?」
「さっきまで犯されかけてたんだぞ。どうしてそんなこと、言えんだよ」
「だって比呂、しなかったじゃない」
「するつもりだったよ」
「でも、しなかったもん」
笑うと、比呂はまた「馬鹿だよ、美羽は」と言った。その声は少しだけ明るかった。
それから比呂は、私の横に座り、はあ、とため息を一つついた。
私に手を差し出し、「起きろよ」と言う。手を取って起き上がった私は、比呂と向かい合うようにして座った。
目の周りを赤くした比呂は、私を見て優しく眼を細めた。
「馬鹿は、俺だよな。どうしてお前を傷つけるような真似したんだろ。美羽は、俺の事こんなにも見てくれてたのに」
何とも言えずに、笑った。
「ごめんな。ほんとに、ごめん」
「もう、いいよ」