シンデレラを捕まえて
それから、比呂はぽつぽつと今の状況を語った。ボンヌでの自分の居場所が無くなってきていること、後輩の谷さんがめきめきと力をつけ始めて、差を感じ始めたこと。
「分かってるんだ。俺は仕事に身が入ってない。前みたいに集中できてないんだ。それが、谷に差をつけられる要因だって。でも、どうやっても仕事に熱中できねえんだ。余計なこと考えて、苛々しちまう。そしたら自分に自信も持てなくなってきて、でも、そんなこと誰にも言えねえ」
私は静かに、比呂の話を聞いた。時折、「うん」と相槌を挟む。
比呂はこうして、誰かに弱音を吐き出したかったんだと思う。
誰かに、自分を見てもらいたかったんだと思う。
窓から差し込む光が傾き、赤色になったころ。比呂がふっと肩で息をついた。
「明日から、頑張るわ、俺」
「うん」
「もう一度、やってみる。もっかい、リーダーに復職できるようにやる」
「うん、頑張って」
「かっこ悪いままじゃ、みっともねえもんな」
比呂は笑って、私の頭をくしゃくしゃと撫でた。
「あのとき断るんじゃなかったって、美羽が後悔するくらいになるよ、俺」
「……うん」
その笑顔は以前の比呂のもので、ほっとする。もう、比呂は大丈夫だ。
「そろそろ俺、帰るわ」
比呂が立ち上がって、玄関へ向かおうとする。
慌ててそれを追う私を、比呂は振り返って見て、「なあ」と言った。
「最後に一回だけ、抱きしめていい?」
「……う、ん」
そっと比呂の手が伸びる。柔らかく、腕の中に取り込まれた。
「あいつのこと、好きなんだろ?」
「うん」
「幸せに、なってくれな。俺、お前だけは、ずっと笑っていてほしい。あんなことしておいて、何言ってんのって思うだろうけど。でもお前だけはいつも笑っててほしいって思う。そうさせてやれなかった自分を、今すごく悔やんでる」
「ありがとう……」
腕が、私を解放する。一歩下がった比呂は、私のおでこにそっと唇を落とした。
「俺、美羽に出会えてよかった」
「うん、わたしも、そう思う」
こんな形で別れることになったけれど、出会ったことを後悔はしていない。比呂に出会えて、よかったと思う。
「もう、迷惑かけないから。今までありがとな」
「ううん。じゃあ、ね」
出て行く比呂を見送る。すっきりした顔の比呂は最後に屈託のない笑顔を見せてくれた。
「分かってるんだ。俺は仕事に身が入ってない。前みたいに集中できてないんだ。それが、谷に差をつけられる要因だって。でも、どうやっても仕事に熱中できねえんだ。余計なこと考えて、苛々しちまう。そしたら自分に自信も持てなくなってきて、でも、そんなこと誰にも言えねえ」
私は静かに、比呂の話を聞いた。時折、「うん」と相槌を挟む。
比呂はこうして、誰かに弱音を吐き出したかったんだと思う。
誰かに、自分を見てもらいたかったんだと思う。
窓から差し込む光が傾き、赤色になったころ。比呂がふっと肩で息をついた。
「明日から、頑張るわ、俺」
「うん」
「もう一度、やってみる。もっかい、リーダーに復職できるようにやる」
「うん、頑張って」
「かっこ悪いままじゃ、みっともねえもんな」
比呂は笑って、私の頭をくしゃくしゃと撫でた。
「あのとき断るんじゃなかったって、美羽が後悔するくらいになるよ、俺」
「……うん」
その笑顔は以前の比呂のもので、ほっとする。もう、比呂は大丈夫だ。
「そろそろ俺、帰るわ」
比呂が立ち上がって、玄関へ向かおうとする。
慌ててそれを追う私を、比呂は振り返って見て、「なあ」と言った。
「最後に一回だけ、抱きしめていい?」
「……う、ん」
そっと比呂の手が伸びる。柔らかく、腕の中に取り込まれた。
「あいつのこと、好きなんだろ?」
「うん」
「幸せに、なってくれな。俺、お前だけは、ずっと笑っていてほしい。あんなことしておいて、何言ってんのって思うだろうけど。でもお前だけはいつも笑っててほしいって思う。そうさせてやれなかった自分を、今すごく悔やんでる」
「ありがとう……」
腕が、私を解放する。一歩下がった比呂は、私のおでこにそっと唇を落とした。
「俺、美羽に出会えてよかった」
「うん、わたしも、そう思う」
こんな形で別れることになったけれど、出会ったことを後悔はしていない。比呂に出会えて、よかったと思う。
「もう、迷惑かけないから。今までありがとな」
「ううん。じゃあ、ね」
出て行く比呂を見送る。すっきりした顔の比呂は最後に屈託のない笑顔を見せてくれた。