MOONLIGHT



「それに、ここにいる人間は、城田さんに関係ない人間なんていません。」


青山さんが、ぞっとする笑みをたたえたまま、そう言った。


「俺は、レイちゃんに、命を助けられた。いや、命だけじゃない、悲しみを乗り越えさせてもらった。」


と、いきなり信じられないくらいの真面目モードで話し出した、戸田。

でも、悲しみって…?


「俺は、城田さんに娘を助けて貰った。城田さんは覚えてないみたいだけど。」


と、森村さん。

…確かに、覚えてない。

それに、医者は助けるのが仕事だし、そんなに特別なことじゃないし。


「俺にとっては、城田は同じ釜の飯を食った、可愛い後輩だ。人一倍努力家で、優秀で、T大の将来を担う、研究を進めていたのに。自由が丘のたかが入院施設のついた町医者に騙されて、2年間を棒にした間抜けな後輩を、心配で見ていられないだけだ。」


神田先輩…はい、仰るとおりです。


「レイ、研究って…。」


オサムが驚いた顔をした。

ああ、オサムには言ってなかったか。


「3年前に、城田が発表した論文の仮説が注目されて、T大が全面バックアップで研究を進めていたんだよ。城田がチームリーダーでな。」


オサムは声も出ないようだ。


「私は、父が本当に、お世話になって…。胃を切って食べられなくて衰弱していた父を、根気よく励まして、戻しても、嫌がらずに大丈夫って、何度も…。城田先生がいたから、父は諦めないで頑張れたんです。それに、私も救われました…弱っている父を見て辛い気持ちになっているときに、関係のない話をして笑わせてくれたり、少しの空き時間におやつを食べていると私にも分けてくれたり、体大丈夫ですか、看病する方も大変なんですよね、っていたわってくれて…。私達、城田先生が見えたから、頑張れたんです!院長先生がゴルフに行っている間のことです!」


北村さん…。

そんなに、言ってもらえるほど特別なことは、してないよ?


そう思って、北村さんを見て、ぼーっとしていたら。

私の髪をさらり、と瀬野将が撫でた。


「俺にとっても、城田レイは、大切な人だ。中川っていったっけ?あんたバカだな、こんないい女逃がして。2度とあんたみたいなインチキヤローには、こういう極上の女は手にはいらねーよ。」


瀬野将…嬉しいんだけど、インチキヤローって言葉のセンス、いまいちかも…。


残念だけど。








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