MOONLIGHT



「バカって言われて悔しい?だけどね、頭の悪さのバカっていったんじゃないよ。恵まれた環境に気づけないことに、バカって言ったの。頭の悪さなんてないよ、勉強すれば、誰だってできるようになる。」

「それは、何でもできる、レイだから簡単にいえるんだ!」


私は、子供のようなオサムにため息がでた。


「あのね、私は、勉強をたくさんしたから、成績がいいだけ。積み重ねだよ。」

「ちがう、記憶力だって、俺とは違う!」

「…こんなことは言いたくなかったけど。わかってくれないから、言うね?私は、本当は獣医になりたかったの。子供の頃から動物がすきでね。」


話が突然変わったから、オサムがキョトンとした。

昔は、その顔が可愛いと思ったけど、今はただのバカ面にしか見えない。

恋って、恐ろしい。


「だけど、やっぱり、医者になろうと思ったの。何でか、わかります?事務長?」


突然、話をフラれてびくりとしたが、直ぐにムッ、とした顔になり、私を睨み付けた。


「わかるわけないでしょ?」

「そうですね、酷い言葉を浴びせたほうは、浴びせられた者の気持ちはわかりませんものね。貴女みたいに、事情もしらないのに、私生児と見下す人がいるからです。医者になれば、人に尊敬される人間になれるって思ったんです。」


そう言うと、典幸の顔が歪んだ。


「だけど、私の恩師の大畑先生に出会って、医者としての心を教わりました。そしたら、尊敬されたいなんて思っていた自分が、この世で一番の大バカだってきがついて…今では、人と向き合うこの道に進んでよかったな、って思えるようになりました。」

「「……。」」


私は、立ち上がりオサムの前に立った。

何故か、瀬野将もついてきて、私の後ろに立った。


「オサム、中川クリニックは、中川治のお父さんの病院だよ。みんな、お父さんを尊敬してた。私は、オサムのお父さんに生きているうちに会って、色々医師として、教わりたいことがあった。偉大な人だったと思う…オサム、キツイ事を言うけど、今のオサムにはあの病院をやっていく力はない。どこかの大学病院に勤めて勉強しなおした方がいい。で、あの病院は設備が整っているから、居抜きで病院に貸した方がいい。家賃収入になる。大学病院の給料じゃ、やっていけないんじゃないか?父親になるんでしょ?」


私の言葉に、オサムは肩を震わせた。





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