MOONLIGHT
「条件?」
私は、頑固ジジイに向き直った。
瀬野将の膝の上でだけど。
「ああ。腸が煮えくりかえるっていう経験を、今回のことで初めて体験したが、どうしてもっていうなら…条件次第では、中川をつぶすのを止めてもいい。」
「条件って、何?」
そう尋ねると、頑固ジジイは…少し、切ない目をした。
「・・・今更だが…葉山レイになってほしい。」
「!!!…何言ってんの!?今更…。」
「わかってる。もっと、俺が強引に、美景に籍を入れさせるべきだったんだ。」
「すみません…話しの腰を折るようですが、何でレイのお母さんは、そんなに籍を入れることを嫌がったんですか?」
そう言えば、理由きいてなかったな。
頑固ジジイを見ると、急に黙り込んだ。
そんな頑固ジジイに典幸が口を開いた。
「親父…もういいだろ。レイも大人だ。」
頑固ジジイはため息をついた。
「レイ…美景を嫌わないでやってくれ。美景な、若い頃随分荒れていて…15歳の時に、鑑別所に入ったことがあるんだ。喧嘩らしいが、相手に酷いけがをさせて、傷害になったらしい…それから、まあ…更生して。美景と会ったのは、銀座のクラブでホステスとしてだったが。一目ぼれだった。親が若くして亡くなっていて、1人で生きてきたんだろう…意地っ張りでな…結婚しようって言っても、自分の経歴で俺に傷がつく、って入籍を拒んだんだ…。二言目には、別れるって脅すし…。レイ、お前にそっくりだ。」
頑固ジジイは、性懲りもなく涙をながし、私を愛しい目で見つめる。
聞いてみれば、ただ愛情の裏返しが原因だった事実…。
私は、1人じゃなかった…。
いや…わかっていたけれど、心の底では。
目の前の涙を流した顔を見る。
随分、シワが増えた。
白髪も。
私は、弁慶を瀬野将に渡し、立ちあがった。
そして。
「しょうがないから、その条件のんでやるよ…………お、父さん……。」
抱きついた体は、今度は温かかった。