形なき愛を血と称して
牙を抜く。痛いと喚くならば、薬で満足させ、生えたものをまた抜き取る。
そんな悲鳴と喘ぎの繰り返しを、リヒルトは幼い時より見ていた。
狂っている日常。受け入れなければ、“やっていけない現実(こと)”。
『お前は、いずれ跡を継がなければならない。でないと、吸血鬼に殺される』
今更辞めるとは言えない罪の連鎖。罰の大きさに恐れをなして、罪を重ねる維持を続けて来た父は亡くなった。
吸血鬼は道具であるが、自身もまた、カウヘンヘルム家の道具であると自覚する。
守るべき栄華も名誉も、風化したというのに、先祖がやったことを続けなければ生きていけない。
利害の一致は続く。
吸血鬼は快楽を。
人間は、金儲けの材料を。
どちらも欲しいものを手に出来る天秤は作られ、今のところは均等なのだが。
「そろそろ、僕の代で終わりにしても良いと思うのだけどねぇ」
さして、大切でもない命の置き場を考え初めてしまう。
リヒルトには、生きる意味というものがなかった。守るべき家族も、栄えるべき血筋も、楽しむべき余生でさえも、遠い昔に風となる。
去りきった物は戻らない。
体は常に、風上にある。