形なき愛を血と称して
(二)
主人の合図もなしに、ラズが吠える意味は二つ。
一つは警笛の意。
一つはーー。
「もー、ほんと可愛いわねぇ。ちゅー」
ラズを撫で回し、あろうことか唇を合わせる来客によって、ラズはお腹を見せる犬と成り下がる。
ごろんごろんと転がっては服従のポーズ。それを可愛いと戯れる来客を、リヒルトは冷めた目つきで見るしかない。
欠伸の一つでも出そうな口を閉じ、溜め息を一つ。
「とっとと、代金払って、出て行ってほしいねぇ」
一階のリビング兼応接間。最低限の家具しかない質素な部屋に、その来客は不釣り合いであった。
毎回来る度に変わる髪色の法則はパステルカラー。髪も派手ならば服装とて然り。孔雀顔負けの来客は、見過ぎると目に毒だ。眩しいものは直視するものではない。
「つれないわねぇ。馴染みなのに」
椅子を用意しても座らず、床に膝をつき、ラズの前足で『せっせっせーの、よいよいよい』をし始める来客。紫のアイシャドーが不満げな目元を強調している。
「こんな薬を買う奴と、馴れ合いたくないねぇ」
小瓶に入った薔薇色の気体を、机の上で弄ぶ。
吸血鬼の牙より精製した薬。顕微鏡で見れば気体ではなく、空気よりも軽い微生物の群れを見ることが出来る。
使用者はこの小瓶の蓋を開け、鼻から摂取すればいいだけなのだが。
「失礼ね。アタシは愛と美の魔法使いなのよ。悪事になんか使わないわ、醜いっ」
ねぇ、とラズに同意を求める。ワンと鳴かれたことを同意に受け取り、得意げな顔をしている。