形なき愛を血と称して
「これで、“あんまり”の者が来るようなら、この部屋閉じようか」
猟銃を杖代わりに腰を曲げ、一呼吸をする。
見下げれば、膝元にすり寄る牧羊犬。
銀色の歯は、対吸血鬼がためにリヒルトが“差し替えた”物だ。
銀に弱い吸血鬼にとって、この犬は処刑人にも等しい。
「ラズ、おすわり」
甲斐甲斐しくも命令に従う牧羊犬。
「何があっても、牙を剥かないでくれよ」
獰猛な吸血鬼対策の一つを己で封じた。
稀にあるのだ。薬を強引に奪おう粋がりが。
そんな奴にはそれ相応の罰を与えるが、今のリヒルトにとってはむしろ、歓迎すべきことなのかもしれない。
猟銃に弾を込めてみたものの、使うかさえも分からない。立ち上がるのにも億劫な体を支える役にしか立たないのだ。
「疲れた、ねぇ」
生きる意義も、意味も、意気込みすらも見当たらない。流されるがままに生きてきた人生。カウヘンヘルム家の道具でしかなかったのであれば、“そうとしか称せない”。
あらかじめ採血した自身の血を紋様に垂らす。
鼓動するかのように発光する紋様。準備は整った。
羊の心臓が溶けていく。薬の入った小瓶は、沼にでも落とされたかのように床に沈んでいった。
あちらに届いたであろう数秒後、這い上がるような腕が床から伸びる。
随分と細い腕だと思ったのもつかの間。