形なき愛を血と称して

「牙は、あるのか」

吸血鬼の証明。見慣れた牙であるが、舌打ちしたい気持ちとなった。

「お前、もう駄目だな」

指を離す。頬の痛みに苦悶する女を無視し、リヒルトは立ち上がった。

「待って下さいっ。き、牙ならいくらでもあげますから、薬のーーでないと、私!」


「そちらの当主に言っておいてくれ。『どうせ抜くなら、こちらに送れ』と」

あからさまに驚愕した女を、リヒルトは鼻で笑う。

「どれだけの吸血鬼(牙)を見てきたと思っているんだ。嘗められたものだねぇ。お前の牙、それが最後かもねぇ」

「そん、な」

「まだ生えると思っていた?」

反応しない女は愕然とするだけ。
女にとっての吸血鬼である証明は、リヒルトの見立てで、後一度あるかないか。

50ほどは生え替わる牙だが、抜く度に色合いや大きさが劣化していく。

女の見た目からーー前回の見せしめがあっても遣わした吸血鬼である時点で予想はついていたんだ。

「地獄から、また地獄。当主から何て聞いているか分からないけど、僕は吸血鬼相手に容赦しないよ」

どこの世界でも、平等は存在しない。

上がいれば下がいる。
下がいるからこそ、上は粋がる。

聞かずとも、この女の人生(物語)は書けるであろう。

吸血鬼とはほど遠い見た目。虐げられるにはうってつけの理由。唯一の証明(牙)も、抜かれ続けていよいよ、吸血鬼ではなくなる時に、最悪の死に場所へと送られてしまった。

リヒルトへの当てつけに使われた。
笑いを堪えながら、『薬の精製方法を聞いてこい。さすれば、我らが同族として“対等”に扱ってやろう』と言う当主が目に浮かぶようだ。

それを信じて、やってきたーー

「わた、私、は……う、あ……ああぁ!」

地獄が終わるのだと、希望を持った女。
絶望に伏すのも簡単だった。

しゃくりを上げ、大粒の涙を零す。

雨に濡れた花を、リヒルトは見下ろすだけ。

この女の処分をどうするかと考える一方で。

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