形なき愛を血と称して

(四)

朝の六時。
前日、どれだけ遅くなろうとも、リヒルトは必ずこの時間に目を覚ます。

二階南側の部屋。必要最低限の家具しかない、家主の性格を表した一室での目覚めは、いつも静かだ。

変わらない朝。
ただし、部屋を出た瞬間、違いがあった。

「……」

ラズがいない。
主人の守備にも勤める犬は、決まってリヒルトの部屋の前で寝ている。寝るときまで犬と共にしたくないとしたリヒルトの躾が、ラズの寝る場所を決めてしまった訳だが。

指笛でラズを呼ぼうかと思ったが、思い当たる節が一つ過ぎる。赴くまま、リヒルトは北側の部屋へ足を進めた。

部屋に入れば、ラズと目があった。
そうして、ラズを抱き枕代わりにしている女も目に入る。

「出ていかなかったのか」

あのまま、泣き疲れて眠ったのだろう。
目を閉じていても分かる腫れた目元。しかし、どこか落ち着いた表情をしていた。

クゥンと、朝の挨拶をするラズだが、女の傍から離れようとしない。

春先とは言え、寒い朝方。毛布もなしに眠ることなど出来ないが、毛皮が近くにあれば話は別。熱を持っているため、普通の毛布よりも寝るには最適なのかもしれない。


「はあ……」

溜め息しか出ない。
追い出す気も失せた。

「よく眠っているねぇ」

起こしては悪いと思えるほどに。

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