幸せの花が咲く町で




「こんにちは、篠宮さん。」

「こ、こんにちは。」



次の日の篠宮さんは、僕の気のせいだけとは思えない程、様子がおかしかった。
昨日以上にそわそわして、落ち着きがない。



「明日の花ですが……」

「つ、堤さん、そのことなんですが……
実は用が出来てしまって、明日は行けそうにないんです。」

「そうでしたか……残念ですが仕方ないですね。
……何かあったんですか?」

「は、はい、あの……その……は、母の体調がちょっと良くなくて……
それで、病院に連れて行かなくてはならないんです。
ちょっと遠くの病院なんで……」

篠宮さんはそう話すと、そっと目を伏せた。
そうだったのか……母親の体調が悪いから、落ち着かないんだ。
そう思うと、納得出来た。



「では、明日はひとりで活けてみます。
良かったら、花を選んでいただけませんか?」

「は、はい。」



「堤さん、お花がお好きなんですね。」

振り返ると、そこには翔君を連れた翔君ママがいた。



「ママ、小太郎君の家にはお花が一杯飾ってあるんだよ。」

「まぁ、素敵。
お花はいつも堤さんが活けられるんですか?」

「活けるだなんて……ただ花瓶に入れるだけですよ。」

「おじさん、もしかしておねぇなの?
料理もうまいし、お花も好きだなんて、なんかおかしいな!」

「こ、これっ!翔!失礼でしょ!
堤さん……申し訳ありません。」

「いえ……」

翔君ママは、翔君を引っ張ってそそくさと僕らの傍から離れて行った。



子供からすれば、やっぱり僕はおかしいんだと思う。
いや、きっと大人から見ても同じことだ。
妻を働かせ、家でのうのうと好きなことをしているおかしな男……世間にはきっとそう映ってるはずだ。



「パパ、おねぇって何?」

「小太郎ちゃん!パパはおねぇなんかじゃないわよ!
パパは優しくてなんでも出来る素晴らしい人よ!」

篠宮さんは突然大きな声でそう言ったから、僕も小太郎もびっくりしてしまった。



「小太郎ちゃん……他の家族となにかがちょっとくらい違ってもそんなことはなんでもないことなの。
小太郎ちゃんのお家では、パパがお家のことをちゃんとやってくれるから、ママは一生懸命お仕事が出来るんだし、それで良いのよ。」

「うん、わかってるよ。
ママはお掃除や料理が嫌いなんだ。
だから、前のおうちは狭くてすっごく汚かったんだ。
僕、今の方がずっと気に入ってるよ。」

小太郎の言葉に、篠宮さんは微笑み、深く頷いた。
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